
「数が多いこと」を表す四字熟語はたくさんありますが、その中でも独特な響きを持つのが「車載斗量(しゃさいとりょう)」です。
三国志に登場する故事が由来でありながら、意味としては「人や物の量が非常に多いこと」を指し、優秀さを問わない点が特徴です。本記事では、語源や使い方、現代での実例を紹介します。
車載斗量の意味
「車載斗量(しゃさいとりょう)」とは、人や物の数・量が非常に多く、量りきれないほどであることのたとえです。「車に載せ、斗(ます)で量るほどの量がある」という字義から来ています。
なお、優秀かどうかは問わず、単純に「数が多い」ことを意味するため、語源のイメージと現代の使い方には違いがある点に注意が必要です。
車載斗量の語源・由来|諸葛亮が孫権に語った外交評価の言葉
「車載斗量」は、中国・三国時代の歴史書『三国志』「呉書・呉主権伝」に収められた裴松之の注に由来します。蜀の丞相・諸葛亮(孔明)が、呉の皇帝・孫権に向けて語ったとされる言葉で、江東の地に人材が豊富であることを称えています。
原文:
今江東之人材 車載斗量 何患無人書き下し文:
今、江東の人材は車に載せ、斗で量るほどなり。人なきを何ぞ患えん。訳文:
今、江東には車に積み、ますで量るほどの人材がいるのだから、人がいないなどと心配する必要はまったくない。
この言葉が語られたとされる背景には、当時の国際情勢があります。
222年の夷陵の戦いで劉備と孫権の関係が決裂したのち、蜀は厳しい局面に立たされました。劉備は大敗を喫した後、白帝城に退いて病に伏し、223年、志半ばにしてこの世を去ります。漢室中興を掲げ、天下三分の大義を抱いた英雄の死は、蜀に深い喪失をもたらしました。
若き劉禅が即位し、政権の実権を握った諸葛亮は、国家の再建と外交の立て直しを図ります。強大な魏に対抗するため、かつて対立した呉との関係修復が戦略上急務となっていました。
そのような中、224年に孫権は張温(ちょうおん)を蜀に派遣します。これは孫権が魏に臣下の礼を取ったことについて、蜀側に誤解が生じないよう説明するためでした。史料には以下のように記されています。
恐諸葛亮不知吾所以與曹氏通意 故屈卿行
(訳:諸葛亮が私と魏(曹氏)との関係について誤解しないように、そなたを派遣するのだ)
つまり、張温は孫権の外交姿勢を諸葛亮に伝えるために派遣されたのであり、直接的に「蜀との同盟関係を修復するため」とする記述はありません。ただし、当時の国際状況を鑑みれば、魏との均衡をとりつつ、蜀との信頼再構築を意識しての外交行動であったと想定されます。
そのような文脈の中で、諸葛亮が「江東の人材は車に載せ、斗で量るほどだ」と述べたことは、単なる賛辞ではなく、呉の国力を評価し、対等な連携の意義を認める政治的メッセージであったと考えられます。
これは、劉備の死後に国内の安定と再建を進めていた諸葛亮が、魏という共通の強敵に対抗するためには呉との協調が不可欠であると判断していたからに他なりません。こうした意識が、この言葉の背後にある戦略的な意図として読み取れるのです。
やがてこの言葉は、故事成語「車載斗量」として広まり、現代では「人や物の数が非常に多いこと」を表す四字熟語として一般化しています。語源や背景を知ることで、その言葉に込められた重みがより一層深く理解できるでしょう。
車載斗量の使い方と例
「車載斗量」は、数が非常に多い状況を表すときに使います。人や物、資料やデータなど幅広い対象に適用され、特に数量の多さを強調したいときに便利です。
語源から「優秀な人材が多い」というイメージを持たれることもありますが、現代日本語では単に「多い」という意味で使われます。
- この倉庫には商品が車載斗量に積まれている。
- 新しい企画案が次々と提出され、まさに車載斗量の状況だ。
- あの街は飲食店が車載斗量で、どこに入るか迷ってしまう。
呉の武将に関連する四字熟語
このブログでは、呉の皇帝・孫権を中心に紹介してきました。ここでは、呉の武将にまつわる四字熟語をまとめています。
- 苦肉之計|周瑜と黄蓋が仕掛けた奇策。自らを犠牲にして敵を欺いた戦略
- 開門揖盗|張昭が孫権に忠告した故事にちなみ、油断の危険を戒めた語
攀竜附驥|張昭が賢君孫権に仕える姿から、優れた人物に従うことの意義を説いた語- 昼夜兼行|呂蒙が昼夜を問わず軍を進め、迅速な戦術で成果を挙げた行軍の語
- 読書百遍|呂蒙が孫権の勧めで学問に励み、武勇だけでなく知略を身につけた逸話
- 呉下阿蒙|呂蒙が大きく成長し、魯粛に「もはや呉下の阿蒙ではない」と称賛された故事に由来
百挙百捷|呉の知将・周魴が敵将を謀略で翻弄し、百戦百勝の活躍を見せた故事- 藍田生玉|孫権が諸葛瑾の息子・諸葛恪を称賛して語った逸話に基づく故事です。
- 三者鼎立|呉の重臣・陸凱が過去の三国均衡を理想とし、戦略的に提言した故事成語
- 落筆点蠅|呉の宮廷画家・曹不興が機転を利かせて筆の汚れを絵に変えた逸話
車載斗量の類義語・対義語
類義語
| 語句 | 意味 |
|---|---|
| 雨後の筍(うごのたけのこ) | 次々と多く現れることのたとえ |
| 多々益々弁ず(たたますますべんず) | 多ければ多いほど役立つこと |
| 有象無象(うぞうむぞう) | 雑多にたくさんいるもの |
対義語
| 語句 | 意味 |
|---|---|
| 寡少(かしょう) | 数が少ないこと |
| 稀少(きしょう) | 珍しく少ないこと |
車載斗量の英語表現
| 英語表現 | 意味・ニュアンス |
|---|---|
| innumerable | 数えきれないほど多い |
| countless | 無数の、非常に多い |
| in great quantity | 大量に |
車載斗量のまとめ|物や人の数が多いことを示す故事成語
「車載斗量」は、三国志の故事を語源とする四字熟語で、もともとは優れた人材が多いことを指していました。しかし、現代では「人や物の数や量が非常に多いこと」を意味し、優秀さを問わない使い方が一般的です。
語源と意味の違いを理解したうえで、適切に活用したい表現です。
原文:
コメント