
三国志には、逆境の中でも再起を誓った英雄たちの物語が数多く記されています。「髀肉之嘆(ひにくのたん)」は、劉備玄徳のそんな想いが込められた四字熟語です。
この記事では、その意味と背景、現代での使い方について紹介します。
髀肉之嘆とは?
髀肉之嘆(ひにくのたん)とは、「力を尽くす場を得られず、無為に過ごすことを嘆くこと」のたとえです。
- 「髀(ひ)」は太もも、
- 「肉」はその部分についた贅肉、
- 「嘆」はため息をつくこと
を意味します。
髀肉之嘆の使い方の例
「髀肉之嘆」は、自らの能力を発揮する機会を得られず、無為に過ごしていることを嘆く場面で使われます。特に、以前は活躍していた人が、現在は力を振るえない状況を表す際に用いられることが多いです。
- 現職を退き、ただの相談役となった彼は、髀肉之嘆のような日々を過ごしていた。
- 戦力外通告を受けたベテラン選手が、髀肉之嘆を感じていたという。
劉備、志を果たせぬ日々に嘆く──「髀肉之嘆」の由来
荊州に身を寄せていた劉備は、長らく戦に加われず、思うように活躍の場を得られませんでした。その無念を語る場面として、ある日ふとももを撫でながらこぼした一言が、後世「髀肉之嘆」と呼ばれることになります。
原文:
先主數歎息曰:「大丈夫當如此也」
及在荊州 為劉表客 久而無所就
嘗坐席上 撫髀歎曰:「大腿之肉生」
左右問其故,先主曰:
「常從征伐 髀裏肉皆消
今不復用 故生耳
日月如流 老將至矣 而功業不建 是以悲耳」書き下し文:
先主、數 歎息して曰く、
「大丈夫は、當に此くの如くあるべし」と。
荊州に在りて、劉表の客と為り、久しくして就す所なく、
嘗て席上に坐して、髀を撫でて歎じて曰く、
「大腿の肉、生ぜり」と。
左右その故を問う。先主曰く、
「常に從い征伐に從いしときは、髀裏の肉、皆消せり。
今、復用いられず、故に生ずるのみ。
日月は流れ、老い將に至らんとし、而るに功業未だ建たず。
是を以て悲しむなり」と。訳文:
劉備はたびたびため息をつき、「立派な男たる者は、このようでなければならぬ」と語っていた。
荊州に滞在し、劉表の客将として迎えられていたが、長いあいだ功績を挙げることができずにいた。
ある日、席に座ったまま太ももを撫でて言った、「太ももに肉がついてしまった……」。
不思議に思った側近たちが理由を尋ねると、劉備はこう答えた――
「かつては戦場を駆け巡っていたので、太ももの肉など落ちていた。だが今は何もせず、使われることもないので、再び肉がついた。
時は流れ、老いも近づいているというのに、いまだ何の功も成せていない。それが悲しいのだ」と。
この逸話は、ただの愚痴ではなく、志ある者が何もできずに時間だけが過ぎることへの焦燥感を表しています。だからこそ「髀肉之嘆」は、現代でも「再起を期する人の嘆き」として共感を呼ぶのです。
劉備・義兄弟関羽に関連する故事・四字熟語
劉備とその義兄弟・関羽に関する他のエピソードにも興味がある方には、以下の記事もおすすめです。
桃園結義 ― 劉備・関羽・張飛が義兄弟の契りを交わした故事- 水魚之交 ― 劉備と諸葛亮の切っても切れない親密な関係
- 三顧之礼 ― 劉備が諸葛亮を三度訪ねて誠意を示した逸話
- 冢中枯骨 ― 袁術を推挙した劉備に孔融が言い放った袁術への痛烈な批評
- 言笑自若
― 骨を削る治療中でも笑みを絶やさなかった関羽の胆力 - 孤軍奮闘 ― 関羽が味方のいない戦場で奮戦した姿
- 昼夜兼行 ― 呂蒙が関羽を討つために、昼夜を問わず軍を進めたことに由来
その他の群雄に関連する故事・四字熟語
劉備や関羽以外の人物、すなわち曹操、孔融、孫礼、袁術などもまた、数々の故事成語を残しています。以下は、そうした群雄たちにまつわる四字熟語を紹介します。
望梅止渇 ― 梅の実を思い浮かべさせて兵士の喉の渇きを癒したという曹操の機転に由来する故事(曹操)- 老驥伏櫪 ― 「老驥櫪に伏すも志千里にあり」と詠んだ曹操の詩から生まれた言葉。老いても志を失わないという不屈の精神を表す(曹操)
- 浮雲翳日 ― 賢者が冷遇され、小人が重用される時世を孔融が憂いた言葉に由来する故事成語(孔融)
清聖濁賢 ― 酒宴の席でも人の才を見抜いた曹操が、清濁を問わず有能な者を登用すべきと語った逸話に由来(徐邈・曹操)- 浮石沈木 ― 有能な者が冷遇され、無能な者が重用される政治の歪みを嘆いた孫礼の進言に基づく故事成語(孫礼)
飛鷹走狗 ― 狩猟や私欲に耽り、政を顧みなかった袁術の逸話に由来する言葉で、為政者の堕落を戒める(袁術)
髀肉之嘆の類義語・対義語
類義語
| 熟語 | 意味 |
|---|---|
| 意気消沈(いきしょうちん) | 元気をなくし、落ち込んでいること。 |
| 失意泰然(しついたいぜん) | 失意の中でも動じず、冷静に構えていること。 |
| 遺憾千万(いかんせんばん) | 非常に残念であること。心から嘆くこと。 |
対義語
| 熟語 | 意味 |
|---|---|
| 意気軒昂(いきけんこう) | 気力が満ちあふれて、元気がよいこと。 |
| 破顔一笑(はがんいっしょう) | 顔をほころばせてにっこり笑うこと。心が晴れている状態。 |
| 前途洋洋(ぜんとようよう) | 将来に希望が満ちあふれていること。 |
髀肉之嘆の英語表記と意味
| 英語表記 | 意味 |
|---|---|
| Regret of idle thighs | 無為な時間を過ごし、力を発揮できないことへの嘆き |
髀肉之嘆のまとめ
「髀肉之嘆」は、一見地味ながらも、劉備の再起への強い意志を象徴する言葉です。
人生において、自分の力を発揮する場がないと感じたとき、この言葉を思い出すことで、新たな一歩を踏み出す勇気につながるかもしれません。
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