浮雲翳日:正義を覆う悪の象徴

おもしろ四字熟語
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理想を掲げる者が報われず、不正がまかり通る世の中。そんな理不尽な状況を、古の漢詩は的確に言い表しています。

「浮雲翳日(ふうんえいじつ)」という四字熟語には、正義が覆い隠される社会への憤りが込められています。

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浮雲翳日の意味とは

「浮雲翳日(ふうんえいじつ)」とは、悪人が政治の権力を握り、世の中が悪くなることのたとえ。または、邪悪な家臣が君主を惑わして善政が行われないこと

  • 「浮雲」は日の光を遮る雲ということから悪人のたとえ。
  • 「翳日」は日の光を覆い隠すことを意味します。
「浮雲(ふうん)日(ひ)を翳(おお)う」ともよみます。

浮雲翳日の使い方と例文

この四字熟語は、正義が妨げられたり、誠実な人物が悪人の妨害に遭っている状況を表現したいときに使います。主に否定的な文脈で用いられます。

  • 清廉な大臣が失脚し、悪徳官吏が出世するとは、まさに浮雲翳日の状況である。
  • 浮雲翳日というべきか、優秀な部下の声は、上司の忖度にかき消された。
  • 正直者が排除され、権力者に取り入る者ばかりが重用される。浮雲翳日の世である。

語源・由来|孔融「臨終詩」に見る儒者の孤高と曹操政権下の苦悩

「浮雲翳日」は、後漢末の名士・孔融(こうゆう)が遺した詩句に由来する言葉です。

孔融は孔子の二十世代後の子孫とされ、幼少からの卓越した才気で知られた文人・儒者です。道義と礼を重んじるその思想は、やがて乱世の現実主義と鋭く対立することになります。

後に曹操が朝廷の実権を握ると、孔融は中央政権に召され、大司空従事中郎や尚書などの官職を歴任しました。この点で、制度上は曹操の配下に属する「部下」と言えます。

しかし孔融は、儒教的な秩序や皇帝中心の体制を重視する立場から、曹操の施政や思想にたびたび批判的な意見を述べていました。特に曹操が重んじた「現実主義」「実力主義」的な政治姿勢は、孔融の考える礼治主義と相容れませんでした。

孔融は、儒教の理念に基づいて諫言し、漢の天子への忠義を説き続けましたが、それはしばしば曹操にとっては「体制を乱す言論」と映ったのです。

建安13年(208年)、孔融は「礼を乱し、世を惑わす」として、曹操の命によって一族もろとも誅殺されました。その直前に詠んだと伝えられるのが、後に「臨終詩」と呼ばれる詩です。その中に、「浮雲翳日」の語源となる以下の一節が記されています:

原文:
讒邪害公正 浮雲翳白日

書き下し文:
讒邪ざんじゃは公正をそこない、浮雲ふうん白日はくじつおお

訳文:
讒言や邪悪な者が正義を損ない、浮かぶ雲が白日の光を覆い隠すように、善がかき消されてしまう。

この詩には、孔融の怒りと悲しみ、そして義を尽くす者としての潔い覚悟が込められています。彼にとっての「白日」は、真理や天子、礼による秩序の象徴であり、それを覆う「浮雲」は、私利に走り、正義を踏みにじる権力や讒者の姿でした。

孔融は政治的な力を持っていたわけではなく、軍事的にも脅威ではありませんでした。それでも、彼の言論と人格は時の権力にとって都合の悪い存在であり、危険視されたのです。「浮雲翳日」という言葉には、正義が顧みられない世に対する鋭い批判と、義を貫いた一人の儒者の信念が強く刻まれています。

後漢末期に活躍した群雄と関わる四字熟語

「浮雲翳日」が生まれた後漢末期は、孔融をはじめとして多くの英雄や賢臣が登場した時代です。以下は、その時代を象徴する人物や出来事にまつわる四字熟語です。

浮雲翳日に類する・対する語句

類義語

語句 意味
忠言耳に逆らう(ちゅうげんみみにさからう) 正しい忠告が嫌われ、受け入れられないことのたとえ
賢人排斥(けんじんはいせき) 有徳な人物が権力者に疎まれ、遠ざけられること
権謀術数の横行(けんぼうじゅっすうのおうこう) 策略や陰謀が支配し、正道が行われない政治状況

対義語

語句 意味
経世済民(けいせいさいみん) 世をよく治め、民を救済すること。善政の基本理念を表す
公明正大(こうめいせいだい) 公平で正しく、私心なく堂々と行動すること。理想の為政者像
清廉潔白(せいれんけっぱく) 心が清らかで私欲がなく、誠実で潔いこと。賢臣の人格を表す

浮雲翳日の英語表記とその意味

英語表記 意味
Dark clouds obscure the sun 悪人が善人を覆い、正義が行われない比喩
Evil eclipses virtue 悪が善を覆い隠すこと

孔融の辞世に刻まれた警句から学ぶ現代への教訓

「浮雲翳日」は、単なる悪人の比喩に留まらず、歴史の中で繰り返される「正義が蔑ろにされる社会」の縮図を映し出す言葉です。

孔融の辞世詩からは、どれほど誠実で義に厚い人物であっても、時にそれが仇となり、排除される現実が読み取れます。

現代においても、声なき正義が埋もれないよう、この語を胸に刻みたいものです。

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