
歴史の転換点には、必ず時代を動かす一人の人物がいます。その存在を見抜く眼力もまた、もう一つの「英雄の力」と言えるでしょう。
今回紹介する「国士無双(こくしむそう)」は、まさにそうした慧眼によって世に現れた言葉です。
国士無双の意味とは
「国士無双(こくしむそう)」とは、一国の中に並ぶ者がいないほど優れた人物という意味の四字熟語です。
「国士」は国家の柱となる人物、「無双」は比肩する者がいないことを意味し、あわせて「唯一無二の英雄」や「天下に比類なき人材」を称える最大級の賛辞として用いられます。
使い方と例文|「国士無双」は歴史的偉人や現代の傑物に対して使われる
「国士無双」は、卓越した能力や人格、実績を持ち、誰にも代えがたい存在に対して用います。歴史上の名将・思想家はもちろん、現代のリーダーにも使われることがあります。
その改革者は、時代の転換点に現れた国士無双の指導者だった。- 幕末の志士・西郷隆盛は、まさに国士無双の人物として今も語り継がれている。
- 彼のような人間性と行動力を兼ね備えた人物は滅多にいない。まさに国士無双だ。
語源・由来|蕭何が命を懸けて引き止めた韓信の才を評した名言
「国士無双」は、司馬遷『史記』の「淮陰侯列伝」に記された逸話に由来します。
韓信は、当初は楚の覇者・項羽に仕えましたが、冷遇されたため劉邦の陣営に身を寄せました。しかし、劉邦のもとでもすぐには登用されず、末端の役職にとどまっていました。
やがて、劉邦は項羽との「鴻溝の和議」により漢中王として辺境の地・南鄭(なんてい)に封じられます。南鄭は地理的にも不利で、物資にも乏しく、事実上の左遷とされていました。この不遇の処遇に、諸侯や将軍たちは次々と劉邦の陣営を去っていったのです。
韓信もまた、失望して立ち去ろうとしましたが、そのとき劉邦の重臣・蕭何(しょうか)がただ一人、馬を走らせて韓信を追い、連れ戻しました。
劉邦が「なぜ他の者は追わなかったのに、韓信だけを追ったのか」と尋ねた際、蕭何は以下のように語ります。
原文:
諸將易得耳。至如韓信,國士無雙,王必欲霸,非信無由也。願王勿疑。読み下し文:
諸将は得(う)るに易(やす)し。韓信のごときに至っては、国士無双なり。王もし覇たらんと欲せば、信に非ざれば由(よ)る無し。願わくば、王疑うことなかれ。訳文:
他の将軍たちはいくらでも得られます。しかし韓信のような人物は、国士無双です。王(劉邦)が覇者になりたいのであれば、韓信を用いなければ道は開けません。どうか疑わずに彼を登用してください。
このやりとりをきっかけに、韓信は登用され、漢軍の総司令官として楚漢戦争を勝利へ導いていきました。
なお、蕭何は行政手腕と人物眼に優れ、漢の初代丞相として国家体制の構築に尽力した名臣です。韓信を「国士無双」と評した慧眼こそ、漢王朝の未来を決定づけたといえるでしょう。
韓信に関連するその他の故事成語
「国士無双」は韓信の人物像を象徴する四字熟語ですが、彼の活躍や評価に関連する故事成語は他にも存在します。以下に代表的なものを紹介します。
背水之陣(はいすいのじん)|韓信が軍を川の背後に配置し退路を断って勝利した、死地を活かす戦法に由来- 愚者一得(ぐしゃのいっとく)|一見取るに足らぬ人物や策にも、意外な価値があることを示す故事。韓信の提案に対する軽視からの逆転が典拠
- 雲合霧集(うんごうむしゅう)|軍勢が一気に集まるさまを表す語で、『史記』に見える韓信の軍の機動性を象徴する表現
国士無双の類義語・対義語
類義語
| 語句 | 意味 |
|---|---|
| 天下無双(てんかむそう) | 天下に二つとないほど優れていること |
| 古今無双(ここんむそう) | 昔から今に至るまで比類のない人物 |
| 天下第一(てんかだいいち) | この世で一番、最も優れていること |
対義語
| 語句 | 意味 |
|---|---|
| 平平凡凡(へいへいぼんぼん) | ごく平凡で取り柄のないこと |
| 無声無臭(むせいむしゅう) | 個性や特徴がなく目立たないこと |
英語での表現|「国士無双」に近い表現を知る
| 英語表現 | 意味 |
|---|---|
| a peerless hero | 比類なき英雄 |
| unmatched patriot | 比類なき愛国者 |
| the one and only national treasure | 唯一無二の国家的存在 |
韓信という「国士無双」から学ぶ人物眼と時代を動かす力
「国士無双」は、ただ優れた人物を讃えるだけでなく、その真価を見抜き、時代を動かす力を与える慧眼の重要さも物語っています。
蕭何が韓信を見出し、劉邦に説いた「この人物なくして天下は取れない」という言葉は、現代にも通じるリーダーの資質と人材登用の本質を教えてくれます。
「国士無双」は、過去の英雄だけでなく、今この時代にも活かせる指針となる四字熟語です。
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