抽薪止沸|賈詡が火中から救った後漢末の知略

おもしろ四字熟語
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混乱が繰り返される時代にあって、表面的な対処ではなく、根本から問題を解決する智略こそが真の安定をもたらす

——そんな姿勢を示す故事成語が「抽薪止沸(ちゅうしんしふつ)」です。

その背景には、後漢末の動乱の中、智将・賈詡(かく)が見せた見事な情勢分析と策略がありました。

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抽薪止沸の意味

「抽薪止沸(ちゅうしんしふつ)」とは、災いや混乱を根本から断って収めることを意味します。

直訳すると「煮えたぎる湯を鎮めるには、薪を引き抜くことである」という比喩で、表面的な現象に対処するのではなく、問題の原因そのものを取り除くべきという考えを示します。

  • 「抽」は抜き取る意。
  • 「沸」は沸騰した湯。
「薪(たきぎ)を抽(ぬ)きて沸(たぎり)を止(とど)む」とも読みます。

抽薪止沸の使い方と例

この四字熟語は、社会問題、組織の混乱、政治的対立などの場面で、根本原因に立ち返って解決策を講じるべきだという文脈で使われます。

  • いくら対症療法を重ねても問題は解決しない。抽薪止沸の考えで、構造そのものを見直すべきだ。
  • 部門間の対立を鎮めるには、人事制度の見直しという抽薪止沸の施策が必要だ。
  • 社会的分断の根源を放置してはならない。抽薪止沸こそが真の解決策である。

語源・由来(『三国志』魏書董卓伝注より)

「抽薪止沸」という語句は、正確には『三国志』本文に明示されているわけではありません。しかし、その思想に通じる実例として、後漢末の智将・賈詡(かく)の策がしばしば引き合いに出されます。

西暦192年、後漢の専横政治を極めた董卓(とうたく)は、配下の呂布(りょふ)により暗殺されました。董卓の死後、その旧臣たち──李傕(りかく)、郭汜(かくし)、樊稠(はんちゅう)、張済(ちょうせい)らが長安の主導権をめぐって争いを始め、帝都は再び混乱に陥ります。

このとき、賈詡は李傕に対して、敵対する郭汜・樊稠の不和を突き、樊稠を除くことで情勢を安定させるよう進言しました。

「郭汜と樊稠は互いに疑心暗鬼となっている。張済を取り込んで、まず樊稠を討つべきです。」

李傕がこの策を採り、樊稠を排除した結果、関中の争乱は一時的に収束します。表面的には混乱が静まったものの、董卓政権に起因する軍閥体制や私兵化された権力構造といった根本的な問題が解決されたわけではなく、長安の不安定さはその後も続きます。

したがって、この事例は「抽薪止沸」の意味する「根本原因を断って混乱を鎮める」という考えと完全には一致しません。しかし、賈詡が状況の本質を見抜き、力のバランスを巧みに操作して混乱の発生源を一時的に断ち切った点は、薪(原因)を抜いて沸騰(混乱)を止めようとする発想に通じるものがあります。

このように、賈詡の策は後世、「抽薪止沸」の象徴的な事例として語られるようになり、戦略的な問題解決の一形態として語彙化されていったのです。

魏の政に関わった知略と識見の故事成語

後に魏に仕えた賈詡は、政治・軍事の両面で重きをなしました。その魏では、同様に知略や弁舌、識見に秀でた人物たちが多くの故事成語を残しています。ここでは、賈詡と時代や政権を同じくする人物たちに関わる四字熟語を紹介します。

抽薪止沸の類義語・対義語

類義語

語句 意味
削株掘根(さくしゅくっこん) 物事の根本原因を掘り下げて除去すること
断根枯葉(だんこんこよう) 末端よりも根本を絶つことで問題を処理すること
釜底抽薪(ふていちゅうしん) 問題の根源を取り除いて状況を好転させること
抜本塞源(ばっぽんそくげん) 問題の源流を塞ぎ、事態の収束を図ること

対義語

語句 意味
付け焼き刃 一時しのぎで根本的な解決にならない策
場当たり その場しのぎで計画性のない対処

抽薪止沸の英語表記と意味

英語表記 意味
Remove the firewood to stop the boiling 煮えたぎる湯を鎮めるために薪を引くという比喩
Address the root cause to stop the effect 原因を断ち、結果を制御する発想

乱世を静めた智将・賈詡の策に学ぶ、抽薪止沸の教え

「抽薪止沸」は、火を消すには水をかけるのではなく、火の源を絶つことが最も確実だという教えを含みます。後漢末、群雄が割拠するなかで賈詡が用いたように、この発想は現代における企業改革、社会問題、国際紛争においても極めて有効な原理です。

表面だけを取り繕うのではなく、根を断つ勇気と冷静な観察力をもつことこそが、真の安定と平和を導く鍵となるのです。

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