
「黄絹幼婦(こうけんようふ)」は、三国志時代に活躍した才人・楊脩(ようしゅう)の機知が光る故事に由来する四字熟語です。
文字の奥に隠された意味を見抜く鋭い洞察力と、正確な解釈力を象徴するこの表現は、教養と知性を尊ぶ中国古代文化の一端を今に伝えています。
黄絹幼婦の意味と語源
この語は、『世説新語(せせつしんご)』に記される逸話に基づきます。魏の曹操が会稽(現在の浙江省紹興)を訪れた際、「孝女・曹娥(そうが)」を讃える石碑を目にしました。そこに刻まれていたのが、次の謎めいた文です。
黄絹幼婦 外孫齏臼
曹操はその意味を理解できず、随行していた若き楊脩に問いかけます。すると楊脩は、漢字の構造や象徴的意味から、次のように見事な解釈を行いました。
- 黄絹=「色糸(しきし)」→「絶」
(「黄」は色、「絹」は糸。あわせて「色糸」→「絶妙の絶」) - 幼婦=「少女」→「妙」
(若い女性=少女→「妙=美しい、巧み」) - 外孫=「女子の子」→「好」
(女+子=「好(このむ)」) - 齏臼=「薬味をすりつぶす器具」→「辞」
(すり潰して調える=言葉を練る→「辞(ことば)」)
これらを総合して、
絶妙好辞(ぜつみょうこうじ)──「絶妙にして、美しく巧みな言葉」
と解釈したのです。曹操はその見事な読み解きに深く感心し、楊脩の才知を高く評価しました。この故事に由来し、「黄絹幼婦」は正確で一致した見識や解釈を称える言葉となりました。
黄絹幼婦の使い方
「黄絹幼婦」は、複雑な問題や難解な事柄について、解釈や判断がぴたりと一致したときに用いられます。また、卓越した洞察力や読解力を称賛する文脈でも使われます。
- 二人の意見はまさに黄絹幼婦、見事に一致していた。
- この解釈は黄絹幼婦と言うべきものだろう。
- 論者たちはそれぞれ別々に議論したが、結論は黄絹幼婦のごとく合致した。
- 彼女の洞察力はまさに黄絹幼婦、見事な読み取りだった。
曹操と曹植にまつわる四字熟語を深掘りしよう
このブログで登場した曹操は、智謀に優れた軍略家であり詩人としても知られています。また、その息子・曹植は、後世に語り継がれるほどの文才を持った天才詩人でした。
彼らに関連する四字熟語は、三国志の奥深い魅力を知るうえで絶好の入り口です。ここでは、彼らを中心とした物語や逸話に基づく成語をご紹介します。
- 望梅止渇(ぼうばいしかつ):兵士の士気を高めた曹操の巧みな心理術
- 老驥伏櫪(ろうきふくれき):老いてなお志を失わない曹操の気概が表れた詩句
清聖濁賢(せいせいだくけん):禁酒令に背いた徐邈に対し、曹操が寛容さを見せた際の評価語- 浮雲翳日(ふうんえいじつ):孔融の忠言が曹操によって退けられ、賢が用いられぬ時代を憂いた言葉
- 子建八斗(しけんはっと):曹植の文才を「八斗の才」と称えた逸話
鶴立企佇(かくりつきちょ):曹植が弟・曹彪に宛てた手紙に見られる、再会を待ち望む心情を表した比喩。- 七歩之才(しちほのさい):七歩の間に詩を完成させた曹植の驚異的な即興力
- 煮豆燃箕(しゃとうねんき):兄弟の争いを詠んだ曹植の切なる詩の一節
- 七歩八叉(しちほはっさ):曹植の即興詩才を象徴する伝説的な四字熟語
- 明眸皓歯(めいぼうこうし):曹植・甄氏をめぐる詩情豊かな描写から生まれた、美しさと哀切を讃える語
曹操の智謀、曹植の詩才──二人が残した数々の逸話を紐解くことで、三国志の物語が一層深みを増します。興味を持った方は、ぜひそれぞれの記事を覗いてみてください。
黄絹幼婦の類義語・対義語
類義語
| 語句 | 意味 |
|---|---|
| 黄絹色糸(こうけんしきし) | 言葉の妙や美しさを象徴する表現(「黄絹幼婦」の別表現) |
対義語
| 語句 | 意味 |
|---|---|
| 支離滅裂(しりめつれつ) | 話や文章にまとまりがなく、ばらばらであること |
| 言語道断(ごんごどうだん) | 言葉で言い表せないほどひどいこと |
黄絹幼婦の英語表記と意味
| 英語表記 | 意味 |
|---|---|
| Yellow silk and young lady | 二人の判断や解釈が正確に一致すること |
黄絹幼婦のまとめ
「黄絹幼婦」は、単なる言葉遊びではなく、鋭い観察眼と正確な解釈力を称える故事に由来する成語です。三国志の時代、楊脩が見せた見事な読み取りは、今なお私たちに「真実を見抜く知恵」の重要さを教えてくれます。
知性と教養を重んじる四字熟語として、ぜひ覚えておきたい言葉です。
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