明眸皓歯──甄氏への秘めた愛が生んだ、美神の化身

おもしろ四字熟語
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「美人」と聞いて、どんな姿を思い浮かべるでしょうか。

古来より、美の象徴として語られてきた表現が中国文学には数多くあります。その中でも、詩的でありながら視覚的な美しさを余すことなく伝えるのが「明眸皓歯(めいぼうこうし)」という四字熟語です。

今回はこの言葉の意味や使い方、そしてその美しさの由来となった曹植の「洛神賦」に迫ります。

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明眸皓歯の意味

明眸皓歯(めいぼうこうし)とは、「美しく澄んだ瞳(明眸)」と「白く整った美しい歯(皓歯)」を備えた女性をたとえた言葉で、絶世の美人を意味します。

出典は魏の詩人・曹植が著した「洛神賦(らくしんふ)」。その後、唐代の詩人・杜甫が「哀江頭(あいこうとう)」の詩において楊貴妃の美貌を形容する語として使用したことで、広く知られるようになりました。

明眸皓歯の使い方と例文

「明眸皓歯」は、主に女性の容貌をたたえる文語的・詩的表現として用いられます。日常会話で使用されることは少ないものの、文学作品や詩歌、または格調高い文章での美人賛辞として好まれます。

  • 彼女はまさに明眸皓歯、人々を魅了する美しさだった。
  • 古の美女といえば西施や王昭君、そして明眸皓歯の洛神が思い浮かぶ。
  • この絵に描かれた女性の姿は、まさに明眸皓歯という表現にふさわしい。

語源・由来|『洛神賦』と明眸皓歯に宿る秘めた悲恋

「明眸皓歯」の語源は、魏の詩人・曹植による辞賦文学『洛神賦(らくしんのふ)』にあります。この作品は単なる幻想賦ではなく、兄・曹丕(そうひ)の正室であった甄氏(しんし)との、報われぬ恋を文学という形で昇華した、深い哀しみに満ちた作品です。

甄氏はもともと袁紹の子・袁熙の妻でしたが、袁氏滅亡後、曹操によって息子の曹丕に再嫁させられ、魏の王妃となりました。しかしその甄氏に対して、曹植は若き頃より秘かな想いを寄せていたとされ、これを曹操も知っていたといわれます。

しかし政治的な判断により、甄氏は兄・曹丕に嫁がされます。やがて、甄氏は後に皇后となる郭皇后の讒言により、強制的に死を命じられ、悲劇的な最期を遂げました。

逸話によれば、曹丕は甄氏が生前愛用していたを、弟・曹植に「贈る」形で渡します。それは、甄氏が生前、曹植に想いを寄せていたことを、曹丕も知っていたことを暗示しているかのようでした。

曹植がその枕を持って故郷に帰る途中、洛水(河南省の川)に差しかかったとき、一人の美しい女神が水辺に現れます。 彼女は「あなたを慕っておりました」と語り、しばしの逢瀬の後、神と人は結ばれることなく、彼女は水の彼方に消えてゆく──この幻想的な物語が、『洛神賦』です。

原文:
蹙蹙靜女 明眸皓齒

書き下し文:
蹙蹙しゅくしゅくたる静女せいじょ明眸皓歯たり。

訳文:
つつましく清らかな女性で、澄んだ瞳と白く美しい歯を持っていた。

このように「明眸皓歯」は、単なる美の賛辞ではなく、曹植の叶わぬ愛と甄氏への追慕を象徴する詩的表現として生まれました。それは、文学に仮託された魂の告白であり、古典の中にこそ刻まれた私的な愛の記憶なのです。

杜甫の詩に見る「明眸皓歯」の継承

「明眸皓歯」という表現は、曹植によって創られた後も、文学の中で繰り返し引用されてきました。中でも著名なのが、唐の大詩人・杜甫による『哀江頭』という詩です。

この詩は、安史の乱により長安を追われた玄宗皇帝と、その寵姫・楊貴妃の悲劇を描いたもので、次のような一節があります:

原文:
明眸皓齒今何在 血污遊魂歸不得

訳文:
明眸皓歯の彼女はいまどこに──
血に染まり、魂はさまよい、戻ることもできない。

このように、杜甫は「明眸皓歯」という言葉を、美の絶頂から悲劇へと転じた女性の象徴として用いました。曹植の幻想から始まったこの語は、時代を超えて文学に生き続け、美と哀しみをあわせ持つ象徴となったのです。

曹植に関連する四字熟語

「明眸皓歯」の出典『洛神賦』を著した曹植は、その詩才や人物像から多くの四字熟語に名を残しています。以下は曹植や彼に関わる人物にまつわる熟語です。

明眸皓歯の類義語・対義語

類義語

語句 意味
蛾眉皓歯(がびこうし) 美しい眉と白い歯。美人の容姿のたとえ
沈魚落雁(ちんぎょらくがん) 魚が沈み、雁が落ちるほどの美女のたとえ

対義語

語句 意味
醜女(しこめ) 容姿の醜い女性。古典文学における醜女のたとえ
不美人(ふびじん) 美しくない女性。一般的に用いられる現代語

明眸皓歯の英語表記と意味

英語表記 意味
Bright eyes and white teeth 美しく澄んだ瞳と白く整った歯をもつ美女
A woman of graceful beauty 優雅な美しさを持つ女性(比喩的表現)

明眸皓歯──文学が生んだ美の象徴

「明眸皓歯」は、ただの容貌の描写ではなく、古典文学が育んだ美の理想像でもあります。

曹植の『洛神賦』から始まり、時代を超えて語り継がれたこの言葉には、内面の気品や神秘的な存在感までが織り込まれています。

現代の我々がこの言葉に触れることで、言葉の奥にある文化や歴史を感じ取ることができるでしょう。

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