
「大逆無道(たいぎゃくむどう)」という四字熟語には、単なる非道を超えた“天地に背くほどの罪”という強烈なニュアンスが込められています。
現代でも時折、極悪非道な行為を非難する場面で耳にしますが、その語源は、楚の覇王・項羽が漢の高祖・劉邦に糾弾された「十の大罪」にまでさかのぼります。
大逆無道の意味
大逆無道(たいぎゃくむどう)とは、道理や人の道を完全に踏み外した極悪非道な行為を意味します。特に、主君への反逆や父子の倫理を破るなど、根源的な秩序を壊す行為に対して使われます。
- 「大逆」は最上級の反逆行為を指し、
- 「無道」は道徳や倫理に完全に背いていることを意味します。
この言葉は、古代中国における最大の罪状として扱われました。
「大逆無道」の使い方と例
この語は、通常の悪行ではなく、人としての根本的な倫理に反する行為を強く非難する文脈で用いられます。
- 主君を裏切ったあの行為は、大逆無道と言わざるを得ない。
- 民を虐殺する独裁者の行いは、まさに大逆無道の極みである。
- 大逆無道なふるまいは、やがて己の身を滅ぼす。
語源・由来|『史記』高祖本紀と項羽罪状十條
「大逆無道」は、司馬遷の『史記』「高祖本紀」に記される、劉邦が項羽を討伐する際に公布した「十の罪状(項羽罪状十條)」の第一条に登場します。
これは楚漢戦争の中盤、劉邦が自身の軍事行動の正当性を天下に示すために発した詔(みことのり)であり、項羽の主君であった義帝(懐王)を弑した行為を「大逆無道」と糾弾しています。
原文:
項羽為人臣而弑其主 大逆無道書き下し文:
項羽、人の臣たりてその主を弑し、大逆無道なり。現代語訳:
項羽は臣下でありながら、主君を殺害した。これはまさに大逆無道である。
以下が、劉邦が示した「項羽の十の大罪」の一覧です。
- 臣下でありながら主君(懐王)を弑し、大逆無道である。
- 約束を破り、勝手に西楚の覇王を名乗った。
- 功臣たちを不当に分封し、自らの意のままに領土を分配した。
- 漢王(劉邦)を辺境の巴蜀に追いやった。
- 義帝の遺体を江に沈めるなど、礼を欠いた。
- 民を略奪し、暴政を敷いた。
- 漢軍に背いて背信行為を重ねた。
- 諸侯を無理やり服属させ、恩を仇で返した。
- 関中を空にして略奪を重ねた。
- 天命に背いて天下を混乱させた。
これらを根拠に、劉邦は「項羽は天が討たんとしている者だ」として正義の戦を主張し、楚漢戦争の大義名分としました。
楚漢戦争に登場する項羽関連の故事成語
本記事は、項羽を中心とした楚漢戦争に関する故事成語のひとつです。以下に、同じ時代や人物に関わる四字熟語を紹介します。
鴻門之会(こうもんのかい)|項羽と劉邦が駆け引きを展開した宴席に由来し、政略と陰謀の緊張を描いた故事。- 怒髪上指(どはつじょうし)|項羽の前で劉邦の家臣・樊噲が命を懸けて激怒を示し、場の空気を変えた場面に基づく語。
羊很狼貪(ようこんろうどん)|項羽の政治的暴虐と貪欲さを、飢えた獣に喩えた批判的表現。- 悲歌慷慨(ひかこうがい)|敗戦を悟った項羽が運命を嘆き、自らの最期を詠った悲壮な歌にちなんだ成語。
- 抜山蓋世(ばつざんがいせい)|項羽の比類なき怪力と武勇を讃えた『垓下の歌』に由来する表現。
大逆無道の類義語・対義語
類義語
| 語句 | 意味 |
|---|---|
| 悪逆無道(あくぎゃくむどう) | 人の道に背いた極悪な行い |
| 悪逆非道(あくぎゃくひどう) | 人として許されない極めて非道な行為 |
| 極悪非道(ごくあくひどう) | 極めて悪質で道理を逸脱した行為 |
対義語
| 語句 | 意味 |
|---|---|
| 清廉潔白(せいれんけっぱく) | 私欲がなく心が清らかであること |
| 品行方正(ひんこうほうせい) | 行いが正しく品格があること |
| 謹厳実直(きんげんじっちょく) | 慎み深くまじめで正直であること |
| 聖人君子(せいじんくんし) | 徳と知恵を備えた理想的な人物 |
大逆無道の英語表記と意味
| 英語表記 | 意味 |
|---|---|
| heinous treason | 極悪な反逆行為 |
| monstrous betrayal | 道徳を破る裏切り |
項羽を裁く言葉としての「大逆無道」の重み
「大逆無道」は、単なる罵倒ではありません。それは、古代中国における最大級の糾弾の言葉であり、臣下が主君を弑するという倫理崩壊の極みを表現する語です。『史記』において、劉邦が項羽を天下に裁かせるために用いたこの言葉は、楚漢戦争の決着に至る道をも象徴していると言えるでしょう。
この四字熟語には、政治の正統性、倫理、そして歴史を動かす言葉の重みが宿っています。今もなお、強い非難の意を込めて用いられる所以です。
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