怒髪上指|鴻門の会で主君を救った樊噲の激怒が生んだ故事成語

おもしろ四字熟語
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怒りが頂点に達したとき、人はどのような表情を見せるのでしょうか。「怒髪上指(どはつじょうし)」は、まさにその瞬間を言葉にした四字熟語です。

舞台は中国・楚漢戦争の緊迫した政治の場「鴻門の会」。劉邦の忠臣・樊噲(はんかい)の壮絶な行動が、この言葉を生み出しました。

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怒髪上指の意味

怒髪上指(どはつじょうし)とは、激しい怒りによって髪の毛が逆立ち、指を上に挙げるほどの気迫を示す様子を意味する四字熟語です。一般的な辞書では「非常に激しい怒りの形相」「怒りで髪が逆立つほどの様子」と記載されます。

  • 「怒髪」は怒りで逆立った髪の毛、
  • 「上指」は指を高く掲げることで、

激昂した人物の全身を用いた威圧的な姿を表現しています。

怒髪上指の使い方と例

この言葉は、人物が理不尽な状況や裏切りなどに直面し、怒りが極限に達した状態を比喩的に表すときに使われます。ビジネスや日常の場面でも、強い抗議や主張の場面で効果的な表現です。

  • 彼は会議で非難されたとき、怒髪上指の形相で反論した。
  • 彼女の約束破りに、父は怒髪上指して詰め寄った。
  • ニュースを見た市民たちは怒髪上指の勢いで抗議活動を始めた。

語源・由来|『史記』項羽本紀に記された樊噲の忠義

「怒髪上指」は、『史記』項羽本紀に記された「鴻門の会」において、劉邦の家臣・樊噲(はんかい)が見せた激しい怒気と気迫に由来します。

楚の覇王・項羽が劉邦を宴に招いた「鴻門の会」は、表向きは和解の場でしたが、実際には劉邦暗殺を目論んだ策略でした。宴の最中、項羽の部下・項荘が剣舞を始め、劉邦を討とうとしたその気配を、張良が察知します。張良はすぐに劉邦の護衛・樊噲にその旨を伝えました。

それを聞いた樊噲は、剣と盾を持って無断で宴席に突入。番兵を押しのけ、項羽の前に立ちはだかり、睨みつけながら堂々と立ち尽くします。その姿と表情は、周囲の空気を一変させるものであり、『史記』は次のように記しています。

原文:
怒髮上指
 目眦盡裂

書き下し文:
怒髪上指
し、目眦ことごとく裂く。

訳文:
樊噲の髪は怒りで逆立ち、指を上に挙げて項羽を睨みつけ、目は裂けるほどに見開かれていた。

その圧倒的な気迫に、項羽は剣に手をかけつつも即座に殺害には動かず、冷静に問いただしました。「客、何を為す者ぞ?」と尋ねると、張良が「沛公の参乗、樊噲なり」と答えます。

これを聞いた項羽は、「壮士なり」と樊噲の胆気を称え、酒を振る舞いました。さらに彘肩(ていけん=豚の肩肉)を賜り、樊噲はそれを剣で切り、その場で堂々と食したと記されています。

この一連の行動は、暗殺の空気が漂う中で樊噲が状況を変え、項羽の意識に直接影響を与えたことを物語っています。まさに「怒髪上指」は、ただの怒りではなく、場を制する忠臣の胆力を示す故事なのです。

楚漢戦争と鴻門の会に関わる他の四字熟語

「怒髪上指」は、楚漢戦争や鴻門の会に関連する場面から生まれた四字熟語です。同様の背景を持つ言葉も併せてご紹介します。

怒髪上指の類義語・対義語

類義語

語句 意味
怒髪衝天(どはつしょうてん) 怒りで髪の毛が天を突くように逆立つこと
怒髪指冠(どはつしかん) 怒りで髪が冠を突き上げるほど逆立つこと

対義語

語句 意味
泰然自若(たいぜんじじゃく) どんな状況でも落ち着いて動じないさま
心頭滅却(しんとうめっきゃく) 心を無にして苦しみや怒りを克服すること
言笑自若(げんしょうじじゃく) どんなときでも普段通りに話し笑う、冷静さを保つさま。三国志・関羽に由来

怒りの極限と忠義の象徴としての「怒髪上指」

「怒髪上指」は、ただ怒りを表すだけの言葉ではありません。主君を守るために命をかけ、敵陣に一人乗り込んだ樊噲のように、信念と覚悟を持って行動した人間の姿を象徴しています。

その表情や姿勢が鮮やかに描かれたこの語句は、現代においても、真の怒りや信義を貫く精神を表現する力強い言葉として私たちに訴えかけてきます。

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