燕王の失策と楽間の離反に学ぶ『一挙両失』の意味と由来

おもしろ四字熟語
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戦国時代末期、燕は秦の圧力にさらされるなかで、趙の弱体化に乗じようとしました。しかし、その判断は国益を広げるどころか、かえって人材と信頼を失う結果を招きます。

「一挙両失(いっきょりょうしつ)」は、まさにこのような失策の中から浮かび上がる言葉です。燕王喜が趙を侮り、忠告を退けた末に招いたのは、単なる敗戦だけではありませんでした。名将・楽毅の子である楽間との関係まで壊し、国としての痛手を深めたのです。

本記事では、この四字熟語の意味とともに、『戦国策』燕策に見える燕王喜が楽間に宛てた書簡を中心に、その由来と教訓を詳しく解説します。

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一挙両失の意味とは|歴史背景から読み解く語義

一挙両失(いっきょりょうしつ)とは、一つの行動や判断によって、二つの利益・立場・機会を同時に失うことを意味する四字熟語です。

単なる失敗を指す言葉ではなく、「一つ得ようとして、かえって二つ失う」というところに、この語の重みがあります。

現代では、欲張った判断や見通しの甘い決断の結果、成果だけでなく信用や人間関係まで損なってしまう場面で使われます。戦略の失敗、交渉の失敗、経営判断の失敗などを戒める言葉として使いやすい表現です。

一挙両失の使い方と例文|現代での用法と注意点

一挙両失は、何か一つの得を狙って動いた結果、かえって複数の損失を招いた場合に使います。特に、「利益だけでなく信用まで失った」「成果も人材も失った」といった場面で使うと意味がはっきり伝わります。

使う際は、単に失敗したというだけでなく、一度の行動で失うものが二つあるという点を意識すると自然です。

  • 短期の売上だけを追った値下げがブランド力まで傷つけ、まさに一挙両失となった。
  • 強引に交渉を進めた結果、契約も信頼も失って一挙両失に終わった。
  • 人件費を削りすぎたせいで業務品質まで落ち、会社は一挙両失の状態に陥った。

一挙両失の語源・由来|『戦国策』燕策に見る人物像と歴史的背景

「一挙両失」は、『戦国策』燕策に見える、燕王喜(き)と臣下楽間(がくかん)とのやり取りに由来します。

戦国時代末期、燕は長平の戦い以後に弱体化した趙を見て、これを攻める好機だと判断しました。しかし、名将楽毅(がっき)の子である楽間は、これに強く反対します。楽間は、趙は戦乱に慣れた国であり、見かけほど弱ってはいないと見抜いていました。軽率に攻めれば、かえって損害を招くと諫めたのです。

ところが燕王はこの慎重な進言を退け、出兵を決断します。さらに将として用いられた劇辛(げきしん)も、旧知の仲であった趙の名将龐煖(ほうけん)を「与しやすい」と軽視しました。しかし実際には、燕軍は龐煖の前に敗れ、劇辛は戦死し、二万人もの兵を失います。すなわち燕王は、慎重な進言を退けたうえに敵を見誤ったことで、国力と将を同時に失う結果を招いたのです。

その後、敗戦によって国力と人材を失った燕王は、趙にとどまる楽間に対し、なんとか復帰してもらおうと書を送ります。その中に見えるのが、次の一節です。

原文:
揚寡人之辱 而君不得榮 此一舉而兩失

書き下し文:
寡人かじんはずかしめをげて、しこうして君もえいを得ず、此れ一挙してふたつながら失するなり。

訳文:
私の恥をさらすだけでなく、あなたも栄誉を得られない結果となった。これは、一度の行動で双方が損をする「一挙両失」である。

ここでいう「一挙而兩失」が、そのまま四字熟語「一挙両失」の語源となりました。

燕王は趙を攻めて利益を得ようとしましたが、結果として戦果を得られなかっただけでなく、将と兵力、さらには人材との信頼関係まで失うことになります。

この故事は、相手を侮り、慎重な意見を退け、目先の利益に走ると、守るべきものまで失うという教訓として伝えられています。

一挙両失と同時代の人物・故事にまつわる関連語句

戦国時代には、国の命運を左右する判断や、君臣・外交・自戒のあり方をめぐって多くの故事成語が生まれました。以下では、一挙両失とあわせて読みたい語句を紹介します。

  • 肝脳塗地(かんのうとち)燕の太子丹と荊軻が秦王政暗殺に挑む場面に由来する語。燕が大国に追い詰められた末の極限の覚悟を描き、一挙両失が示す燕の衰運とも重ねて読める故事です
  • 唇歯輔車(しんしほしゃ)宮之奇が説いた、互いに支え合う国同士の利害関係を示す語。隣国との関係を見誤ると自国にも害が及ぶという点で、趙を侮った燕王の失策と通じます
  • 按兵不動(あんぺいふどう)趙簡子と蘧伯玉に関わる、軽挙を避けて情勢を見極める判断を示す語。動かないこと自体が戦略となる点で、軽々しく兵を動かした燕王喜とは対照的です
  • 韋弦之佩(いげんのはい)西門豹と董安于が自らの欠点を戒めた故事に由来する語。自分を律する発想があれば、燕王のような過信から生まれる失策は避けられたかもしれません
  • 唯唯諾諾(いいだくだく)韓非子が批判した、君主に迎合するだけの臣下の態度を表す語。耳ざわりのよい意見ばかりが通る政治の危うさという点で、一挙両失の背景理解にも役立ちます
  • 為虎傅翼(いこふよく)韓非子と慎到の政治思想に見える、危険な者に力を与えるたとえ。誤った相手や誤った判断に勢いを与えると取り返しがつかないという教訓が響き合います
  • 一字千金(いちじせんきん)呂不韋にまつわる有名な逸話。戦国末期の知と権力の結びつきを示す語であり、一挙両失と同じく、戦国期の政治的緊張の中から生まれた表現として並べて読むと面白い語です
  • 一上一下(いちじょういちげ)呂不韋が編んだ『呂氏春秋』に見える、上下しながら変化する世界の理を示す語。情勢は固定ではなく常に動くという視点を持てなかったことが、燕王の誤算につながったとも読めます

一挙両失の類義語・対義語|意味の広がりと対照概念

類義語

完全に同じ語ではありませんが、「一つを欲して、かえって複数を失う」「欲張った結果、どちらも得られない」という点で近い表現です。

語句(かな) 意味
二兎追う者は一兎をも得ず 同時に二つを得ようとして、結局どちらも得られないこと
虻蜂取らず(あぶはちとらず) 両方を狙ったために、結局どちらも手に入らないこと
欲の熊鷹股裂くる(よくのくまたかまたさくる) 欲張った結果、かえって身を滅ぼしたり損をしたりすること

対義語

こちらは、一つの行動で二つの利益を得るという意味で、一挙両失と対照的な表現です。

語句(かな) 意味
一挙両得(いっきょりょうとく) 一つの行動で二つの利益を得ること
一挙両全(いっきょりょうぜん) 一つのはたらきで、双方を完全に成り立たせること
一石二鳥(いっせきにちょう) 一つの行為で二つの利益を得ること

一挙両失の英語表記|歴史背景を踏まえた訳語

英語表記 意味
lose two things in one move 一つの行動で二つのものを失うこと
one action, two losses 一度の判断で二重の損失を招くこと

一挙両失に見る歴史的教訓と現代への示唆

一挙両失とは、ひとつを得ようとして、かえって二つを失う結果を招くことを指します。

燕王は趙を攻めて利益を得ようとしましたが、結果として将と兵力、さらに人材との信頼まで失いました。目先の利益にとらわれ、相手を侮り、慎重な意見を退けたことが、損失を拡大させたのです。

仕事においても同じです。ひとつの成果を急ぐあまり、信用や機会まで失ってしまうことは珍しくありません。

「この判断で、何を失う可能性があるか」一挙両失は、その視点を忘れないための言葉です。

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