逆境にこそ光明あり?「窮すれば通ず/貧すれば鈍する」の本当の意味と誤用に注意

誤用しやすい慣用句
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ピンチに立たされたとき、「貧すれば通ず」なんて言ってしまったことはありませんか?
一見それっぽく聞こえますが、実はこの表現、正しくは「窮すれば通ず」

しかも「貧すれば鈍する」という全く逆の意味の慣用句と対になっているんです。

今回は、混同されやすいこの二つの慣用句について、正しい意味や使い方、語源、さらには誤用の原因まで、社会人が恥をかかないよう丁寧に解説していきます。

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「窮すれば通ず/貧すれば鈍する」の正しい意味と使い方

まずはそれぞれの意味を確認しておきましょう。

窮すれば通ず(きゅうすればつうず)

追い詰められて行き詰まったときこそ、新たな道や打開策が見えてくるということ。

使用例:

  • 彼は大きなトラブルに直面したが、窮すれば通ずで画期的な解決策をひらめいた。
  • 起業当初は資金も人脈もなかったが、窮すれば通ずの精神でなんとか乗り切った。
  • 研究開発の行き詰まりから、窮すれば通ずで新たな視点を得ることができた。

貧すれば鈍する(ひんすればどんする)

貧しくなると心まですさんで愚かになる。経済的な余裕がなくなると、判断力や知恵までも鈍ってくるということ。

使用例:

  • 生活に追われて子どもにあたってしまった。貧すれば鈍するとはよく言ったものだ。
  • 最近の彼の行動はちょっとおかしい。やっぱり貧すれば鈍するのかもしれない。
  • 貧すれば鈍するというが、そんなときこそ冷静さが求められる。

語源|「窮すれば通ず」と「貧すれば鈍する」の由来

これらの慣用句は、ともに中国の古典にルーツがありますが、それぞれ出典が異なります。

窮すれば通ずの出典

「窮すれば通ず」は、中国の古典『易経』の「繫辞上伝(けいじじょうでん)」に見られる思想に由来します。

原文:
窮則變 變則通 通則久

書き下し文:
きゅうすれば変じ、変ずれば通じ、通ずれば久し。

訳文:
行き詰まると変化が生じ、変化によって物事がうまくいき、うまくいけばそれが長続きする。

この一節は、状況が困難になることで変革が起こり、新たな道が開けるという思想を表しています。ここから、「窮すれば通ず」という成句が生まれました。

また、同様の価値観は『論語』にも見られます。『論語』憲問篇(けんもんへん)に次の一節があります。

原文:
君子固窮 小人窮斯濫矣

書き下し文:
君子くんしもとよりきゅうす。小人しょうじんきゅうすればすなわみだる。

訳文:
君子は困窮しても節操を失わず動じないが、小人は困窮するとすぐに道を乱してしまう。

ここで言う君子とは、儒教において理想とされる人格者であり、道徳・礼節・教養を兼ね備えた存在を指します。一方の小人は、その対極にある未熟で利己的な人間であり、判断力や節度に欠ける者を意味します。

君子くんしもとよりきゅうす」という文は、文法上は「君子はもともと窮する(ことが多い)」とも読めますが、ここでは「君子は困窮してもその志を曲げない」「逆境においても節操を保つ」という儒家の理想像を含意しています。つまり、君子であるならば貧困にあっても礼節を失わず、自己を律する姿勢を貫く、という思想が込められているのです。

一方、「小人は窮すればすなわみだる」は、困窮に直面した際に自制心を失い、道徳を乱してしまう姿を描写しています。この対比によって、逆境こそがその人の本質をあらわにするという儒教的メッセージが明確に示されているのです。

貧すれば鈍するの由来

「貧すれば鈍する」という言い回しは、明確な出典がある古典的文言ではなく後世に生まれた慣用句とされています。そのため、『易経』や『論語』のような典拠をもつ「窮すれば通ず」とは性格が異なります。

ただし、その背景には儒教思想における「貧困=人格や知性への悪影響」という考え方があるとされます。たとえば『論語』では「小人しょうじんきゅうすればすなわみだる」とされ、困窮が人間の節度を乱すことが語られています。

また、『孟子』には「恒産こうさんなければ恒心こうしんなし(安定した収入がなければ、安定した心も持てない)」という思想もあり、経済的困窮が精神面に影響するという点で共通しています。

このような儒教的背景から、「貧すれば鈍する」という言い回しが江戸期以降に定着したと考えられています。

なぜ「貧すれば通ず」と誤用されるのか?

この二つの慣用句が混同される原因にはいくつかの要因があります。

  • 音の類似:「窮すれば」「貧すれば」がよく似ており、口語では聞き間違いやすい。
  • 意味の混同:「貧=困る」「困る=窮する」とイメージが重なるため、「貧すれば通ず」と連想しやすい。
  • 対句表現の認識不足:「窮すれば通ず」と「貧すれば鈍する」が対になっているという認識が一般に浸透していない。

「貧すれば通ず」は、語感的には意味が通じるように見えるため、何気なく使ってしまう人も少なくありません。しかし、「貧すれば鈍する」は「通ず」とは真逆の意味であることから、特にビジネス文書や論考では注意が必要です。

まとめ|意味を正しく理解し、使い分けを意識しよう

「窮すれば通ず」は、苦境に陥ったときにこそ打開策が見えるという希望を与える慣用句。
「貧すれば鈍する」は、生活が困窮することで思考や行動が鈍ってしまうという警句的な表現。

語感が似ていても、意味は正反対。誤って「貧すれば通ず」などと言ってしまうと、意味不明な表現になってしまいます。

社会人として恥をかかないよう、正しい意味と使い方をぜひこの機会に覚えておきましょう。

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