
上司に報告をしたところ、「うん……」とだけ返事をして、苦虫を噛み潰したような顔で黙ってしまった——そんな場面に遭遇したことはありませんか?
こうした場面でよく使われるのが「苦虫を噛み潰したような顔」という慣用句です。しかし中には「苦虫を噛んだような顔」と、少しだけ違う表現を使っている人も。実はこれ、誤用なんです。
今回は、「苦虫を噛み潰したような」の正しい意味や使い方、語源、そしてなぜ誤って使われることがあるのかまで、社会人向けにわかりやすく解説していきます。
「苦虫を噛み潰したような」の意味と具体的な使い方
「苦虫を噛み潰したような」とは、
- 非常に機嫌が悪そうな顔つき
- 見るからに不快そうな表情
- 不満や怒りを押し殺しているような様子
を指す慣用句です。主に「〜顔」「〜表情」という形で使われます。
具体的な使用例
- 彼はプレゼンの結果が思わしくなかったらしく、苦虫を噛み潰したような顔で会議室を出ていった。
- 取引先からの理不尽な要望に、部長は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
- 恋人が約束を破ったことを責められて、苦虫を噛み潰したような顔をして黙りこんでいた。
いずれの文も、本人が言葉を発さずとも「顔」や「表情」から感情がにじみ出ている場面を描いています。
「苦虫を噛み潰したような」の語源とは
この表現に登場する「苦虫(にがむし)」という虫は、実際に存在する虫ではありません。ただし、昔から「虫は噛んだら苦いだろう」と自然に想像される存在でした。
多くの虫は、外敵から身を守るために苦味のある成分を体内にもっていることがあります。たとえばテントウムシや蛾の幼虫などは、苦味をもつことで捕食者から逃れています。このような背景から、「苦虫=非常に苦くて嫌な味がする虫」というイメージが形成され、
それを噛み潰したときに自然と出るしかめっ面=不快で不機嫌な表情を表す比喩として使われるようになりました。
つまり、「苦虫を噛み潰したような」とは、
- 想像上の強烈に苦い虫を噛み潰したときの顔つき
- その苦痛・不快さから生じる険しい表情・不機嫌な顔
を指す比喩表現として、日本語の中で定着した慣用句なのです。
なぜ「苦虫を噛んだような」と誤用されるのか?

「苦虫を噛み潰したような」が正式な形ですが、実際には
- 苦虫を噛んだような顔
- 苦虫を食べたような顔
という表現を耳にすることもあります。
これらが誤用とされる理由は、以下のとおりです。
- 本来の表現「噛み潰す」は、より強い嫌悪感・不機嫌を表す比喩であり、「噛んだ」では中途半端な印象になってしまうため。
- 「噛む」と「噛み潰す」が似た動作のため混同しやすい(口語での言い回しでは違和感が少ないため、無意識に誤って使ってしまう)。
- 日常会話では語尾を短く省略しやすいことから、誤って短縮された形が定着しやすい。
しかし、「苦虫を噛み潰したような」という形が成句として定着している表現である以上、ビジネスメールや公式な文書では、正しい形を使用するのが望ましいでしょう。
まとめ|「苦虫を噛み潰したような」は表情描写の定番
「苦虫を噛み潰したような」は、機嫌の悪い・不快な表情を的確に描写する慣用句です。その印象的な言葉の響きから、多くの小説やドラマなどでも使われています。
一方で、「苦虫を噛んだような」といった省略・変形による誤用も少なくありませんが、公式な文章や公の場では避けたい表現です。
言葉の持つニュアンスや正確な表現を身につけることで、より豊かな日本語表現が可能になります。ぜひ今後の会話や文章作成に役立ててみてください。
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