
画蛇添足(がだてんそく)は、必要のないものを付け加えたために、かえって物事を損なってしまうことを表す四字熟語です。出典は『戦国策』斉策二「昭陽為楚伐魏」。
戦国時代、魏を破って斉へ進軍しようとする楚の昭陽(しょうよう)に対し、斉王の使者となった陳軫(ちんしん)が「蛇に足を描いた者」のたとえを語り、勝利を重ねながら引き際を失う危険を説いた故事に由来します。
画蛇添足の意味|「やり過ぎ」が成功を失敗に変える
画蛇添足(がだてんそく)とは、すでに十分なものに不要なものを付け加え、そのためにかえって物事を損なってしまうことです。
「画蛇」は蛇を描くこと、「添足」は足を付け加えることを意味します。蛇には本来足がないにもかかわらず、完成した蛇の絵にわざわざ足を描き加えたという故事から生まれました。
単に「余計なもの」を意味するだけでなく、余計なことをしたために、かえって結果を悪くしてしまう場合に使われます。「蛇足」という言葉も、この故事に由来します。
画蛇添足の使い方|完成したものに手を加え過ぎない
画蛇添足は、文章・企画・デザイン・仕事などがすでに十分な状態なのに、さらに手を加えた結果、かえって分かりにくくしたり価値を損なったりする場面で使えます。「念のため」の付け足しが逆効果になった場合にも適した表現です。
- 説明は十分に伝わっていたのに、余計な一文を加えたため、かえって論点がぼやけた。まさに画蛇添足だ。
- 完成したデザインに装飾を加え過ぎるのは画蛇添足になりかねない。
- 交渉がまとまった後で新たな条件を持ち出したのは画蛇添足で、結局は合意そのものを失ってしまった。
- 十分な成果を得たところで止めておけばよかったものを、さらに利益を求めたために画蛇添足となった。
画蛇添足の語源・由来|陳軫はなぜ「蛇の足」で昭陽を止めたのか

出典:『戦国策』斉策二「昭陽為楚伐魏(昭陽、楚の為に魏を伐つ)」
画蛇添足の故事は、中国の戦国時代を背景とする『戦国策』に記されています。登場するのは、楚の昭陽(しょうよう)と、斉王の使者として昭陽のもとを訪れた陳軫(ちんしん)です。
昭陽は楚のために魏を攻め、敵軍を破って将を討ち、八城を手に入れました。そして、その勢いのまま兵を移して斉を攻めようとします。斉にとって大きな脅威となった昭陽を止めるため、そのもとへ赴いたのが陳軫でした。しかし陳軫は、いきなり斉への進軍をやめるよう求めたわけではありません。
昭陽の戦勝を祝ったうえで、これほどの軍功を挙げれば楚ではどのような官爵を得られるのかと尋ねます。そして昭陽自身に、これ以上の地位を得る余地がほとんどないことを確認させたうえで、「蛇に足を描いた男」の話を語りました。
原文:
昭陽為楚伐魏 覆軍殺將得八城 移兵而攻齊
陳軫為齊王使 見昭陽 再拜賀戰勝 起而問
「楚之法 覆軍殺將 其官爵何也」
昭陽曰「官為上柱國 爵為上執珪」
陳軫曰「異貴於此者何也」
曰「唯令尹耳」
陳軫曰「令尹貴矣 王非置兩令尹也 臣竊為公譬可也楚有祠者 賜其舍人卮酒
舍人相謂曰『數人飲之不足 一人飲之有餘 請畫地為蛇 先成者飲酒』
一人蛇先成 引酒且飲之 乃左手持卮 右手畫蛇 曰『吾能為之足』
未成 一人之蛇成 奪其卮曰『蛇固無足 子安能為之足』
遂飲其酒 為蛇足者 終亡其酒今君相楚而攻魏 破軍殺將得八城
不弱兵 欲攻齊 齊畏公甚
公以是為名居足矣 官之上非可重也
戰無不勝而不知止者 身且死 爵且後歸
猶為蛇足也」
昭陽以為然 解軍而去書き下し文:
昭陽、楚の為に魏を伐ち、軍を覆し将を殺して八城を得、兵を移して斉を攻む。
陳軫、斉王の為に使いし、昭陽に見え、再拝して戦勝を賀し、起ちて問う、
「楚の法、軍を覆し将を殺さば、其の官爵は何ぞや。」
昭陽曰く、「官は上柱国と為り、爵は上執珪と為らん。」
陳軫曰く、「此れより貴き者は何ぞや。」
曰く、「唯だ令尹有るのみ。」
陳軫曰く、「令尹は貴し。王、両令尹を置くに非ざるなり。臣、竊かに公の為に譬えん、可ならんか。楚に祠る者有り。其の舍人に卮酒を賜う。
舍人相謂ひて曰く、「数人にて之を飲まば足らず、一人にて之を飲まば余り有り。請う、地に画きて蛇を為らん。先に成る者、酒を飲まん。」
一人の蛇先に成り、酒を引きて且に之を飲まんとす。乃ち左手に卮を持ち、右手にて蛇を画き、曰く、「吾能く之が足を為らん。」
未だ成らざるに、一人の蛇成り、其の卮を奪いて曰く、「蛇固より足無し。子、安んぞ能く之が足を為らん。」
遂に其の酒を飲む。蛇の足を為る者、終に其の酒を亡えり。今、君、楚に相として魏を攻め、軍を破り将を殺して八城を得。
兵を弱めずして斉を攻めんと欲し、斉、公を畏るること甚だし。
公、是を以て名を為すに足れり。官の上は重ぬべきに非ざるなり。
戦いて勝たざる無くして止まるを知らざる者は、身且に死し、爵且に後に帰せん。
猶お蛇足を為すがごときなり。」
昭陽、以て然りと為し、軍を解きて去る。訳文:
昭陽は楚のために魏を攻め、敵軍を破り、将を討って八つの城を手に入れると、兵を移して斉を攻めようとした。陳軫は斉王の使者として昭陽に会い、丁重に戦勝を祝った後、尋ねた。「楚の制度では、敵軍を破り、将を討った者には、どのような官爵が与えられるのですか」
昭陽は、「官は上柱国、爵は上執珪となる」と答えた。
陳軫が、「それよりさらに高い地位は何ですか」と尋ねると、
昭陽は、「ただ令尹があるだけだ」と答えた。
そこで陳軫は言った。「令尹は高い地位です。しかし王が二人の令尹を置くことはありません。そこで、私からあなたのために一つ、たとえ話をさせてください。
楚の国に、祭祀を行った者がいました。その者が舍人たちに一杯の酒を与えました。舍人たちは相談して、『数人で飲むには足りないが、一人で飲むなら余る。地面に蛇を描き、最初に完成させた者が酒を飲むことにしよう』と言いました。
一人が真っ先に蛇を描き終え、酒を引き寄せて飲もうとしました。ところが左手に杯を持ったまま、右手でさらに蛇を描きながら、『私はこいつに足まで描くことができる』と言いました。
まだ足を描き終えないうちに、別の一人が蛇を完成させ、その杯を奪って、『蛇にはもともと足がない。お前がどうして蛇に足を付けることができるのか』と言い、そのまま酒を飲みました。
蛇に足を描いた者は、結局その酒を失ったのです。
さて今、あなたは楚を輔佐して魏を攻め、敵軍を破り、将を討ち、八城を手に入れました。しかも兵力を損なうことなく、さらに斉を攻めようとしています。斉があなたを大いに恐れているのですから、これだけでも名声としては十分です。これ以上、官位を重ねて与えることもできません。
戦えば必ず勝ちながら、止まることを知らない者は、ついにはその身を滅ぼし、爵位も後の者に帰することになるでしょう。それは、まるで蛇に足を描き加えるようなものです」
昭陽は、そのとおりだと思い、軍を解いて引き揚げた。

陳軫の説得で重要なのは、「蛇に足を描く」という話を単独で語ったのではなく、その前に昭陽自身から官爵について答えを引き出している点です。
昭陽はすでに大きな軍功を挙げ、斉に恐れられるほどの名声を得ていました。しかも、さらに上にある官職は令尹だけであり、楚王が二人の令尹を置くことはないと陳軫は指摘します。つまり、ここから斉を攻めて勝利を重ねても、昭陽が得られるものには限りがありました。
そこで示されたのが、すでに蛇を描き終えて酒を得られる立場にありながら、余計な足を描こうとして酒を失った男の話です。陳軫は、さらに斉へ攻め込む昭陽の行動を「猶為蛇足也(猶お蛇足を為すがごときなり)」と重ね合わせました。
この言葉を聞いた昭陽は陳軫の説をもっともだと認め、軍を解いて引き揚げます。蛇の寓話は単なる余興ではなく、斉への進軍を思いとどまらせるために用いられた説得のたとえだったのです。
「画蛇添足」は、この蛇に本来ない足を描き加えた故事から生まれた言葉です。同じ故事から、余計な付け足しを意味する「蛇足」という言葉も生まれました。
現代では、すでに十分なものに余計な手を加えたため、かえって物事を悪くしてしまう場合に使われます。文章に説明を加え過ぎて分かりにくくしたり、完成したデザインに装飾を重ねて魅力を損ねたりする場面などにも通じる故事です。
画蛇添足とあわせて読みたい|楚・斉の王と説客たちの故事
画蛇添足が生まれた戦国時代には、王や将軍の判断を、一つの言葉や巧みな説得が左右する場面が数多くありました。楚や斉に関係する人物を中心に、古典に残された別の故事も見てみましょう。
和氏之璧(かしのへき)|楚の卞和が山中で見つけた玉の原石を王に献じますが、ただの石と判断され、虚言の罪で左右の足を切られます。それでも卞和は玉の真価を訴え続け、ついに名玉と認められました。人や物の本当の価値を見抜くことの難しさを伝える壮絶な故事です。- 遺簪墜屨(いしんついく)|孔子が簪を失って悲しむ婦人に出会った話と、楚の昭王が落とした靴を惜しんだ故事に由来し、使い慣れた物への愛着を表す言葉
河魚腹疾(かぎょのふくしつ)|春秋時代、楚軍が蕭を攻めた際、楚の申叔展と敵方の還無社が「麦麴」「山鞠窮」「河魚腹疾」という謎めいた問答を交わします。敵味方に分かれながらも、隠語によって救出方法を伝え合った二人の機知と信頼を描く故事- 雲雨巫山(うんうふざん)|楚の懐王と巫山の神女をめぐる伝承から生まれた言葉。夢の中に現れた神女が去り際に語った「朝には雲となり、夕べには雨となる」という幻想的な物語
倚門之望(いもんのぼう)|戦国時代の斉で、王孫賈の母が門に寄りかかって息子の帰りを待った故事に由来。燕の楽毅による斉への侵攻という国家的な動乱の中で、帰らぬ子を案じる母の切実な思いが描かれた言葉- 怨女曠夫(えんじょこうふ)|孟子が斉の宣王に対し、民衆の苦しみに目を向けることの大切さを説いた故事。結婚できずに嘆く女性と妻を持てない男性を例に挙げ、為政者が民心を失えば国家もまた不安定になると警告した
- 縁木求魚(えんぼくきゅうぎょ)|孟子が斉の宣王に対し、武力によって天下を手に入れようとする望みを「木に登って魚を求める」ことにたとえた故事
画蛇添足の類義語・対義語|「余計な一手」と「適切な判断」
類義語
画蛇添足の類義語には、不要なものを加えることや、工夫したつもりが逆効果になることを表す語があります。
| 語句(かな) | 意味 |
|---|---|
| 為蛇画足(いだがそく) | 画蛇添足と意味・由来が同じ |
| 為蛇添足(いだてんそく) | 〃 |
| 妄蛇添足(もうだてんそく) | 〃 |
| 屋上架屋(おくじょうかおく) | 屋根の上にさらに屋根を架けるように、無用なものを重ねること |
| 弄巧成拙(ろうこうせいせつ) | うまくやろうと技巧を凝らした結果、かえって失敗すること |
対義語
画蛇添足に、一般的な日本語辞書で定まった対義語はありません。ただし、「必要以上のものを求めない」という考え方では、次の語が対照的です。
| 語句(かな) | 意味 |
|---|---|
| 知足安分(ちそくあんぶん) | 身のほどをわきまえ、高望みをせず、自分の境遇に満足すること |
| 知足不辱(ちそくふじょく) | 足ることを知れば、欲を出し過ぎて恥辱を受けることがないということ |
画蛇添足を英語で表すと?
英語では「不必要なものを付け加える」という意味を説明する表現のほか、すでに十分なものへ余計な装飾を施すことを表す慣用表現が近い意味を持ちます。
| 英語表記 | 意味 |
|---|---|
| make an unnecessary addition | 不必要なものを付け加える |
| gild the lily | すでに十分なものへ余計な飾りを加える |
画蛇添足が教える「成功した後の引き際」
画蛇添足は、余計なものを付け加えたために、かえって物事を損なってしまうことを表す四字熟語です。
故事の中で蛇を最初に描いた男は、すでに勝っていました。昭陽もまた、魏軍を破り、将を討ち、八城を得て、斉に恐れられるほどの成功を収めていました。二人に共通しているのは、「すでに十分な成果を得ていた」という点です。
陳軫はそこに着目し、蛇の足という鮮明なたとえを使って、さらに進めば今までの成果まで失いかねないことを昭陽に説きました。そして昭陽は、その言葉をもっともだと認めて軍を解きます。
完成したものに何かを加えることが、必ずしも改善になるとは限りません。余計な一手によって、かえって結果を悪くしてしまうことがあります。画蛇添足は二千年以上を経た現代にも、「足すこと」が常に価値を生むとは限らないことを伝える四字熟語です。
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