
柯会之盟(かかいのめい)とは、約束を果たし、信義を守ることで人から信頼を得ることのたとえです。由来は、中国の春秋時代、魯の荘公と斉の桓公が柯で結んだ盟約にあります。
この故事では、魯の臣・曹沫(ばつ)が斉の桓公に迫って失地の返還を求め、桓公は後にその約束を守りました。その結果、斉は諸侯から信用を得たと伝えられています。
柯会之盟は、目先の利益よりも「信」を守ることの重さを伝える故事です。
柯会之盟の意味|約束を果たし信義を守ること
柯会之盟(かかいのめい)とは、約束したことを果たし、信義を守ることで人から信頼を得ることのたとえです。
「柯」は、春秋時代に斉の桓公と魯の荘公が会盟した地名です。故事では、桓公が不利な約束であっても最終的に守ったことで、諸侯から信用を得たと伝えられています。
柯会之盟の使い方と例文|約束を守り信用を得る場面
柯会之盟は日常的に頻繁に使われる四字熟語ではありませんが、約束を守ることによって相手から信用を得る場面や、目先の利益より信義を優先する姿勢を表す際に用いることができます。
- 不利な条件になっても約束を守った彼の姿勢は、まさに柯会之盟というべきものだった。
- 取引先との約束を最後まで果たしたことで、柯会之盟のように大きな信用を得ることができた。
- 曹沫に迫られて交わした約束を守った斉の桓公の故事が、柯会之盟として後世に伝わっている。
- 目先の利益を捨てても信義を守るという柯会之盟の教訓は、現代の人間関係や商取引にも通じる。
柯会之盟の語源・由来|曹沫の剣と桓公の「信」が交差した柯の盟

1.出典
柯会之盟の故事は、春秋時代の斉と魯の会盟に基づきます。
『春秋』荘公十三年には、魯の荘公と斉の桓公が柯で盟約を結んだことが記されています。『春秋左氏伝』は、これを斉と魯の和平の始まりと説明しています。
曹沫(そうばつ)が桓公に迫った具体的な故事は『春秋公羊伝』に見え、さらに『史記』斉太公世家では、桓公が管仲の進言を受けて約束を守り、諸侯の信頼を得た経緯が記されています。
2.何について語られた一節か
春秋時代の斉の桓公は、管仲を用いて国力を高め、諸侯の中心となる覇者への道を歩んでいました。『史記』斉太公世家によれば、桓公五年、斉は魯を攻め魯軍を破ります。魯の荘公は遂邑を差し出して和平を求め、桓公はこれを受け入れ、両者は柯で会盟することになりました。
ところが盟約を結ぼうとしたその場で、魯の曹沫(そうばつ)が匕首を手に桓公へ迫り、斉が魯から奪った土地を返すよう要求します。桓公はその場では要求を受け入れましたが、曹沫が去った後になると約束を破り、曹沫を殺そうとしました。
そこで管仲が桓公を諫めます。わずかな利益を得るために諸侯からの信用を捨てれば、天下からの支持を失うことになる――この進言を受けた桓公は約束を守り、魯から奪った土地を返しました。

3.原文・書き下し文・訳文
まず『春秋』荘公十三年には、柯での会盟そのものが簡潔に記されています。
出典:『春秋』荘公十三年(経)
原文:
冬 公會齊侯 盟于柯書き下し文:
冬、公、斉侯に会い、柯に盟う。訳文:
冬、魯の荘公は斉侯、すなわち斉の桓公と会い、柯で盟約を結んだ。
この経文そのものには、曹沫の行動は記されていません。
『春秋左氏伝』荘公十三年では、この会盟について次のように説明しています。
出典:『春秋左氏伝』荘公十三年(伝)
原文:
冬 盟于柯 始及齊平也書き下し文:
冬、柯に盟う。始めて斉と平らぐなり。訳文:
冬、柯で盟約を結んだ。これによって初めて斉との和平が成立した。
『左伝』では、柯の盟を斉と魯の和平の始まりとして位置づけています。
一方、『春秋公羊伝』荘公十三年では、会盟の場で起こった出来事が詳しく描かれています。
出典:『春秋公羊伝』荘公十三年
原文:
莊公升壇 曹子手劍而從之
管子進曰「君何求乎」
曹子曰「城壞壓竟 君不圖與」
管子曰「然則君將何求」
曹子曰「愿請汶陽之田」
管子顧曰「君許諾」
桓公曰「諾」書き下し文:
荘公、壇に升り、曹子、剣を手にして之に従う。
管子進みて曰く、「君 何をか求むる。」
曹子曰く、「城壊るれば竟を圧せん。君、図らざるか。」
管子曰く、「然らば則ち君、将に何をか求めんとする。」
曹子曰く、「願わくは汶陽の田を請わん。」
管子顧みて曰く、「君、許諾せよ。」
桓公曰く、「諾。」訳文:
荘公が盟約の壇に上がると、曹子は剣を手にして荘公に従った。管仲が進み出て「あなたは何をお求めなのですか」と尋ねた。
曹子は「魯は斉に圧迫され、城壁が崩れれば斉との国境に達するほど追い詰められています。この状況をお考えにならないのですか」と訴えた。
管仲が「それでは何を求めるのですか」と尋ねると、曹子は「どうか汶陽の土地をお返しいただきたい」と求めた。
管仲は振り返って桓公に承諾を促し、桓公は「承知した」と答えた。
その後、曹子は盟約が成立すると剣を投げ捨てて立ち去ります。
『公羊伝』は、強制された盟約であれば破ることもでき、曹子を仇として報復することもできたにもかかわらず、桓公は欺かず、恨まなかったと述べ、最後に、「桓公之信著乎天下 自柯之盟始焉」と記しています。
つまり、桓公の信義が天下に明らかになったのは、柯の盟から始まったというのです。
さらに、四字熟語の意味を理解するうえで重要なのが『史記』斉太公世家です。
出典:『史記』斉太公世家
原文:
桓公後悔 欲無與魯地而殺曹沬
管仲曰「夫劫許之而倍信殺之 愈一小快耳 而棄信於諸侯 失天下之援 不可」
於是遂與曹沬三敗所亡地於魯
諸侯聞之 皆信齊而欲附焉書き下し文:
桓公、後悔し、魯に地を与うること無くして曹沫を殺さんと欲す。
管仲曰く、「夫れ劫かされて之を許し、信に倍きて之を殺すは、一小快を愈くするのみ。而して信を諸侯に棄て、天下の援けを失うは、不可なり。」
是に於いて遂に曹沫が三敗して亡いし所の地を魯に与う。
諸侯之を聞き、皆斉を信じて附かんと欲す。訳文:
桓公は後悔し、魯に土地を与えず曹沫を殺そうとした。すると管仲は「脅されて承諾した約束に背き、曹沫を殺したところで、ほんの一時の満足を得るだけです。そのために諸侯からの信用を捨て、天下からの支持を失うようなことをしてはなりません」と諫めた。
そこで桓公は、曹沫が三度の敗戦によって失った土地を魯へ返した。これを聞いた諸侯はみな斉を信頼し、斉に従いたいと思うようになった。

4.四字熟語の説明
「柯会之盟」の「柯」は、斉の桓公と魯の荘公が会盟した場所です。しかし、四字熟語として重要なのは、単に「柯で盟約を結んだ」という出来事ではありません。
曹沫に迫られて交わした約束であっても、桓公が管仲の進言を受けてその約束を守り、結果として諸侯から信頼されたことから、約束を果たして信義を守り、人から信頼を得ることのたとえとなりました。
5.原文全体が伝える考え
この故事で重要なのは、曹沫の大胆な行動だけではありません。桓公にとって、曹沫に迫られて承諾した約束は、自ら進んで結んだものではありませんでした。そのため桓公は、後になって約束を破ろうとします。
しかし管仲は、土地という目先の利益と、諸侯から寄せられる長期的な信用を比較しました。わずかな土地を惜しんで約束を破れば、「斉は信用できない」と諸侯から見られてしまいます。反対に、不利な約束であっても守れば、斉の「信」を天下に示すことができます。
桓公が選んだのは後者でした。『史記』が「諸侯之を聞き 皆斉を信じて附かんと欲す」と記すように、約束を守ったことは斉にとって大きな政治的信用となりました。
6.現代とのつながり
柯会之盟の故事は、現代の人間関係やビジネスにも通じます。交渉では、自分にとって有利な条件を得ることだけが利益とは限りません。いったん交わした約束を守り、「この人なら信用できる」と思われることが、その後のより大きな利益につながる場合があります。
目先の利益を取るのか、それとも長く残る信用を取るのか。曹沫との約束を守った桓公の判断は、信義を守ることそのものが大きな力になるという柯会之盟の意味をよく表しています。
柯会之盟とあわせて読みたい|斉・魯の君主と春秋の知略
柯の盟が行われた春秋時代には、斉の桓公と管仲を中心に諸侯間の秩序が大きく変化していました。また魯をはじめとする諸国でも、君主と臣下の判断が国の行方を左右します。柯会之盟に登場する斉・魯や、その政治思想につながる故事をあわせて読むと、当時の世界がより立体的に見えてきます。
宴安酖毒(えんあんちんどく)|管仲が主君桓公に進言した言葉。安楽にふけることは猛毒を飲むのと同じであり、やがて身を滅ぼす原因になるという戒め- 一進一退(いっしんいったい)|管仲が活躍した春秋時代の複雑な外交や軍事の現実を象徴する言葉。諸侯同士の駆け引きの中で進退を繰り返しながら覇権を争った時代背景を理解する手がかりとなる
一樹百穫(いちじゅひゃっかく)|管仲が国家経営において最も重要なのは人材育成であると説いた故事に由来。穀物なら一度、木なら十度、人なら百倍の収穫をもたらすという比喩から、長期的な人材育成の重要性を説く- 怨女曠夫(えんじょこうふ)|『孟子』で孟子が斉の宣王に政治を説く場面に関わる言葉。結婚できない男女がいる社会の姿を通して、民の暮らしに目を向ける政治の必要性を説く
縁木求魚(えんぼくきゅうぎょ)|孟子が斉の宣王に対し、武力によって天下を思いどおりにしようとすることを「木に登って魚を求める」ようなものだと説いた故事- 飲至策勲(いんしさっくん)|魯の桓公が戦勝後に宗廟へ報告し功績を記録した故事。祖先への報告と論功行賞という礼制を描く
允文允武(いんぶんいんぶ)|魯の僖公を称えた『詩経』の名句。文徳と武功を兼ね備えた理想的な君主像を表す故事成語- 遠水近火(えんすいきんか)|『韓非子』魯の穆公の逸話。遠くにある水では目前の火事を消せない。強国に囲まれた小国が、目前の危機にどう対処するかという現実的な問題を考えさせる故事
柯会之盟の類義語・対義語|信義を守る言葉と比較する
類義語
柯会之盟と完全に同じ意味ではありませんが、「約束を守る」「言葉を違えない」という点で意味の近い語句があります。
| 語句(かな) | 意味 |
|---|---|
| 一諾千金(いちだくせんきん) | 一度承諾した約束には千金ほどの重みがあるとして、約束を必ず守ること |
| 言行一致(げんこういっち) | 口で言ったことと実際の行動とが一致していること |
対義語
柯会之盟に直接対応する対義語として定着した四字熟語はありません。「約束を守る」という意味と対照的な語句としては、次の表現があります。
| 語句(かな) | 意味 |
|---|---|
| 食言(しょくげん) | 一度口にしたことを取り消したり、約束を破ったりすること |
柯会之盟の英語表記|「信義を守る」をどう表すか
柯会之盟は中国の故事に基づく固有の四字熟語であるため、英語では意味を説明する形で表すのが分かりやすいでしょう。
| 英語表記 | 意味 |
|---|---|
| to keep one’s word and earn trust | 約束を守り、信頼を得る |
| to honor one’s promise | 自分がした約束を守る |
柯会之盟が残した教訓|土地より重かった覇者の信用
柯会之盟とは、約束を果たし、信義を守ることで信頼を得ることのたとえです。由来となった柯の盟では、曹沫に迫られて約束した斉の桓公が、管仲の進言を受けてその約束を守り、魯へ土地を返しました。
『史記』は、その結果、諸侯が斉を信頼して従おうとしたと伝えています。目先の利益よりも、約束を守ることで得られる信用のほうが大きい。柯会之盟は、そのことを伝える故事です。
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