
温良恭倹(おんりょうきょうけん)とは、人に接する際に備えるべき理想的な人格や徳目を表す四字熟語です。
出典は『論語』学而(がくじ)第十章で、孔子の門人である子禽が子貢に対し、なぜ孔子は訪れる国々で政治について意見を求められるのかを尋ねた場面に由来します。そこで子貢は、孔子の人格が「温・良・恭・倹・譲」の徳を備えていたからだと説明しました。
後世、このうち「譲」を除いた四徳が独立して用いられ、「温良恭倹」という言葉として広く知られるようになりました。
温良恭倹の意味|孔子が示した理想的人格とは
温良恭倹(おんりょうきょうけん)とは、穏やかで思いやりがあり、礼儀正しく、慎み深いことを指します。それぞれの文字には次の意味があります。
| 項目 | 意味 |
|---|---|
| 温(おん) | 穏やかで人当たりが柔らかいこと |
| 良(りょう) | 素直で善良なこと |
| 恭(きょう) | 礼儀正しく敬意を払うこと |
| 倹(けん) | 慎み深く節度があること |
他者への思いやりと礼節を備えた人格の理想像として、古くから儒教において重視されてきました。
温良恭倹の使い方と例文|人徳を表す四字熟語
主に人物の性格や人柄を評価する際に用いられます。特に、温和で礼節を重んじる人物を称賛する表現として使われます。
- 彼は若くして会社を率いているが、温良恭倹の人柄で社員から厚い信頼を得ている。
- 地域活動に尽力するその人物は、まさに温良恭倹を体現している。
- 指導者には能力だけでなく、温良恭倹の徳が求められる。
- 孔子の教えを学ぶうちに、温良恭倹の大切さを実感した。
なぜ孔子は尊敬されたのか|温良恭倹の語源と由来

出典は『論語』学而(がくじ)第一第十章です。
春秋時代、孔子は理想の政治を実現するため諸国を遊説していました。しかし官位や権力を強引に求めることはなく、各国の君主や重臣から自然に政治について意見を求められていました。
あるとき弟子の子禽(しきん)は、その理由を不思議に思い、同門の子貢(しこう)へ質問します。「先生はどこの国へ行っても政治について相談されるが、自ら求めているのか、それとも相手から求められるのか」と。
これに対し子貢は、孔子の人格そのものが人々の信頼を集めているのだと答えました。その際に用いた言葉が「温良恭儉讓(おんりょうきょうけんじょう)」です。
原文:
子禽問於子貢曰
「夫子至於是邦也 必聞其政 求之與 抑與之與」
子貢曰「夫子温良恭儉讓 以得之 夫子之求之也 其諸異乎人之求之與」書き下し文:
子禽、子貢に問いて曰く
「夫子の是の邦に至るや、必ず其の政を聞く。之を求めたるか、抑之を与えたるか。」
子貢曰く、
「夫子は温良恭儉讓、以て之を得たり。夫子の之を求むるや、其れ諸れ人の之を求むるに異なるか。」訳文:
子禽が子貢に尋ねた。
「先生がどこの国に行っても必ず政治について意見を求められるのは、ご自身で望んだ結果なのですか。それとも相手から求められるのですか。」子貢は答えた。
「先生は穏やかで善良、礼儀正しく慎み深く、さらに謙譲の徳を備えておられる。その人格によって人々から求められるのだ。先生が人々の信頼を得るあり方は、権力や利益を求める普通の人々とはまったく異なるのである。」
ここで語られる「温良恭儉讓」は孔子の人格を端的に表した言葉でした。後世には「譲」を省略した「温良恭倹」が広まり、人間として理想的な徳目を示す四字熟語となりました。
現代でも、地位や肩書ではなく人格によって信頼を得る人物を評価する言葉として使われています。
孔子の思想をより深く知る関連故事
孔子の思想や人物像を知ることで、温良恭倹が重視された理由もより理解しやすくなります。
温柔敦厚(おんじゅうとんこう)|孔子は『詩経』の教育によって育まれる人格が「温柔敦厚」であり、穏やかで思いやり深く誠実な人柄こそが『詩経』の教えの成果であると評価した- 按兵不動(あんぺいふどう)|晋の趙簡子が衛への出兵を考えた際、衛には蘧伯玉・孔子・子貢ら徳と知恵を備えた人物がいることから、攻めても得るものより失うものが大きいと判断し、出兵を見合わせた故事に由来。目先の戦果ではなく、戦後の混乱や道義的な不利までをも見通す言葉
甕裡醯鶏(おうりけいけい)|孔子が老子との出会いによって初めて自らの視野の狭さに気づいた故事。まるで、甕の中に生じる小さな虫のようだったと自分を卑下した- 遺簪墜屨(いしんついく)|孔子が簪を失って悲しむ婦人に出会った話と、楚の昭王が落とした靴を惜しんだ故事に由来し、使い慣れた物への愛着を表す言葉
遠慮近憂(えんりょきんゆう)|孔子の言葉に由来し、遠い将来を考えなければ近い将来に憂いが生じることを戒める。人格修養だけでなく先見性の重要さを説く教訓- 韋編三絶(いへんさんぜつ)|孔子が『易経』を繰り返し読み、竹簡を綴じる革紐が何度も切れたという故事。学問に対する真摯な姿勢を示し、徳を磨くための不断の努力を物語っている
円鑿方枘(えんさくほうぜい)|丸い鑿穴に四角いほぞ(柄)を差し込もうとしても合わない、というたとえから、物事が合わないことを意味する。孔子や孟子の理想と、春秋戦国時代の現実政治とのずれを考えるうえで興味深い語- 一日之長(いちじつのちょう)|孔子が弟子に志を問う場面で放った言葉に由来。「ほんのわずかな年上だからといって、それを理由に遠慮する必要はない」と弟子たちの本音を促した
温良恭倹の類義語・対義語
類義語
温和で礼節を重んじる人格を表す言葉が類義語として挙げられる
| 語句(かな) | 意味 |
|---|---|
| 温柔敦厚(おんじゅうとんこう) | 温和で情け深く誠実なこと |
| 謹厳実直(きんげんじっちょく) | 真面目で誠実なこと |
対義語
礼節や慎みを欠いた態度を表す言葉が対義語となる
| 語句(かな) | 意味 |
|---|---|
| 傲岸不遜(ごうがんふそん) | 高慢で人を見下すこと |
| 尊大不遜(そんだいふそん) | 思い上がっていること |
| 傍若無人(ぼうじゃくぶじん) | 勝手気ままな言動をすること |
温良恭倹を英語で表記すると
穏やかさ・善良さ・礼節・慎み深さを備えた人格を表す表現
| 英語表記 | 意味 |
|---|---|
| gentle, kind, respectful, and modest | 穏やかで善良、礼儀正しく慎み深い |
温良恭倹が教える、人から信頼される人格のあり方
温良恭倹は、『論語』学而篇で子貢が孔子の人格を称えた「温良恭儉讓」に由来する四字熟語です。穏やかさ、善良さ、礼節、慎み深さという四つの徳を表し、古くから儒教が理想とする人格像として受け継がれてきました。
孔子が各国で尊敬され、政治について意見を求められたのは、権威や地位ではなく、その人柄そのものに人々が信頼を寄せていたからです。
現代社会でも、人を動かすのは肩書や権力だけではありません。温良恭倹の教えは、相手を思いやり、礼節を守り、慎みを忘れない人格こそが真の信頼につながることを教えてくれます。
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