
掩耳盗鐘(えんじとうしょう)とは、自分に都合の悪い事実から目を背け、あたかも問題が存在しないかのように振る舞うことを意味する四字熟語です。
出典は戦国時代末期に編纂された『呂氏春秋』自知篇です。この故事では、鐘を盗もうとした人物が、その音を他人に聞かれることを恐れて自ら耳をふさぐという滑稽な行動を取ります。
この寓話は単なる笑い話ではなく、「自分の欠点や過ちを認めない人間の愚かさ」を戒めるために語られています。現代でも問題の先送りや現実逃避を批判する際によく用いられる故事成語です。
掩耳盗鐘の意味|見たくない現実から目を背ける愚かさ
掩耳盗鐘(えんじとうしょう)とは、都合の悪い事実や現実から目を背け、自分をごまかすことを意味する四字熟語です。自分では問題を見ないようにしても、実際には何も解決していない状態をたとえます。
『呂氏春秋』に記された、鐘を盗もうとした男が音を聞かれないよう自ら耳をふさいだ故事に由来します。現在では、以下の場面で使われます。
・都合の悪い事実を無視する
・失敗や欠点を認めない
・問題を見なかったことにする
・現実逃避をする
日本では「掩耳盗鈴(えんじとうれい)」の形でも広く知られていますが、原典『呂氏春秋』では「鐘」が用いられています。
掩耳盗鐘の使い方|問題を見ないふりをする人への戒め
掩耳盗鐘は、自分自身を欺く行動や、現実を直視しない態度を批判的に表現するときに用います。
- 問題点を指摘されても無視するのは、まさに掩耳盗鐘である。
- 赤字が続いているのに対策を取らない経営は掩耳盗鐘と言わざるを得ない。
- 健康診断の結果を見ないふりをするのは掩耳盗鐘の行為だ。
- 不祥事を隠せば解決すると思うのは掩耳盗鐘にすぎない。
耳をふさいで鐘を盗む――掩耳盗鐘の語源と由来

掩耳盗鐘(えんじとうしょう)の出典は『呂氏春秋』不苟(ふこう)論第三・自知篇です。『呂氏春秋』は秦の宰相であった呂不韋のもとで編纂された思想書で、諸子百家の学説を集大成した書物として知られています。
自知篇の主題は「自分を知ること」です。君主が国家を治めるためには、自らの欠点や過失を知り、他人の忠告に耳を傾けなければならないと説いています。その論旨を説明するために示されたのが、後世に「掩耳盗鐘」と呼ばれることになる寓話です。
春秋時代、晋の名門であった范氏が滅亡した際、ある者が鐘を手に入れました。しかし鐘は重すぎて運べません。そこで男は鐘を砕いて持ち帰ろうと考え、槌で叩きました。ところが鐘は大きな音を立てます。
男はその音を他人に聞かれれば鐘を奪われると恐れ、なんと自分の耳をふさいでしまいました。自分に聞こえなくなれば他人にも聞こえないと思い込んだのでしょう。しかし鐘の音は当然ながら周囲に響き渡っています。
作者はこの話を用いて、「自分の欠点や過失を聞きたくない者は、この男と同じである」と戒めています。
原文:
范氏之亡也 百姓有得鍾者
欲負而走 則鍾大不可負
以椎毁之 鍾況然有音
恐人聞之而奪己也 遽掩其耳
惡人聞之可也 惡己自聞之 悖矣書き下し文:
范氏の亡ぶるや、百姓に鍾を得る者あり。
負いて走らんと欲するも、則ち鍾大にして負うべからず。
椎を以て之を毁つ。鍾、況然として音有り。
人の之を聞きて己より奪わんことを恐れ、遽に其の耳を掩う。
人の之を聞くを悪むは可なり。己自ら聞くを悪むは、悖れり。訳文:
(晋の貴族である)范氏が滅んだとき、一人の民が大きな鐘を手に入れた。背負って持ち去ろうとしたが、鐘は大きすぎて運べなかった。そこで槌で壊そうとしたところ、鐘は盛大な音を響かせた。人々がその音を聞いて奪いに来ることを恐れた男は、急いで自分の耳をふさいだ。
他人に聞かれるのを恐れるのは理解できる。しかし自分自身が聞くことまで恐れるのは、まったく道理に反している。
この故事から、「現実を認めなければ問題も存在しない」と思い込む愚かな態度を「掩耳盗鐘」というようになりました。
現代の企業不祥事、組織の隠蔽体質、個人の問題先送りなどにも通じる普遍的な教訓を持つ故事です。
掩耳盗鐘とあわせて読みたい戦国時代の故事成語
延頸挙踵(えんけいきょしょう)|呂不韋が編纂した『呂氏春秋』に見える故事成語。優れた政治を待ち望む人々が首を長くし、つま先立ちになって賢君の到来を待つ様子を描く- 一字千金(いちじせんきん)|呂不韋が『呂氏春秋』完成後に咸陽の城門へ掲げ、「一字でも改められた者には千金を与える」と宣言した故事
一上一下(いちじょういちげ)|呂不韋の政治的手腕や戦国時代の権力闘争に関連する故事として伝わる。激しく変化する時代の中で、人の運命や立場が大きく変転する様子を象徴する四字熟語である。- 一士諤諤(いっしがくがく)|秦で変法を進めた商鞅に対し、趙良が迎合せず率直に諫言した逸話に基づき、多数の追従より一人の正論の重みを示す語
- 遠交近攻(えんこうきんこう)|范雎が秦の昭王に献じた外交戦略。魏冉の勢力を抑えながら秦の覇業を推進した歴史的政策であり、戦国策や史記にも見える著名な故事
烏白馬角(うはくばかく)|燕太子丹と秦王政をめぐる伝説的な逸話から生まれた成語。不可能と思われる出来事を表し、戦国末期の緊迫した国際情勢を背景としている。
掩耳盗鐘の類義語・対義語
類義語
現実を直視せず、自分を欺く態度を表す言葉
| 語句(かな) | 意味 |
|---|---|
| 掩耳盗鈴(えんじとうれい) | 自分をごまかして安心すること |
| 自己欺瞞(じこぎまん) | 自分自身を欺くこと |
| 現実逃避(げんじつとうひ) | 現実から目を背けること |
対義語
現実をごまかさず、誠実かつ公正な態度で物事に向き合うことを表す言葉
| 語句(かな) | 意味 |
|---|---|
| 光明正大(こうめいせいだい) | 心にやましいところがなく、公正で隠しごとのないこと |
| 正正堂堂(せいせいどうどう) | 態度や行動が正しく立派で、ごまかしや不正のないこと |
英語で言うと?掩耳盗鐘の英語表現
自分をごまかす行為を表す英語表現
| 英語表現 | 意味 |
|---|---|
| Deceive oneself | 自分自身を欺く |
| Bury one’s head in the sand | 問題から目を背ける |
| Self-deception | 自己欺瞞 |
耳をふさいでも現実は消えない――掩耳盗鐘が伝える教訓
掩耳盗鐘(えんじとうしょう)は、『呂氏春秋』自知篇に記された寓話に由来する故事成語です。鐘を盗もうとした男が自ら耳をふさぐという滑稽な行動を通じて、人間が自分に都合の悪い事実を見ようとしない愚かさを鋭く批判しています。
二千年以上前に語られた故事でありながら、その教訓は現代社会にも通用します。問題を隠すのではなく、正しく認識して向き合うことこそが大切であると教えてくれる四字熟語です。
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