
延頸挙踵(えんけいきょしょう)は、中国古典『呂氏春秋』精通に見える言葉です。首を長く伸ばし、つま先立ちになって遠くを見つめる様子から、大切な人や待ち望んでいる出来事の到来を心待ちにすることを意味します。
戦国時代末期に編纂された『呂氏春秋』の中で、人々が優れた政治や指導者を強く待望する姿を表現した故事に由来しています。
延頸挙踵とは?首を長くして待ち望む意味をわかりやすく解説
延頸挙踵(えんけいきょしょう)とは、首を長く伸ばし、かかとを上げて遠くを見ることから転じて、ある人や出来事を切実に待ち望むことを意味する四字熟語です。
「延頸」は首を伸ばすこと、「挙踵」はかかとを上げて背伸びをすることを表します。どちらも遠くから来る人や知らせを待つ動作であり、そこから「首を長くして待つ」という意味で使われるようになりました。
現代では、期待している人物の到来や朗報、念願の実現を心待ちにする場面で用いられます。
延頸挙踵の使い方|どんな場面で使う?例文付きで紹介
延頸挙踵は、強い期待や待望の気持ちを表現するときに使われます。個人の感情だけでなく、多くの人々が希望を抱いて待つ場面にも適した表現です。
- 新監督の就任を、ファンは延頸挙踵して待っていた。
- 地域の人々は復興計画の発表を延頸挙踵して待ち望んでいる。
- 長く続編が制作されなかった人気作品だけに、公開日は延頸挙踵の思いで迎えられた。
- 家族は留学中の息子の帰国を延頸挙踵して待っていた。
延頸挙踵の由来|人々が理想の政治を待ち望んだ『呂氏春秋』の故事

延頸挙踵の出典は、『呂氏春秋』季秋紀第五「精通」です。
『呂氏春秋』は戦国時代末期、秦の宰相であった呂不韋(りょふい)が諸子百家の学者を集めて編纂した思想書です。「精通」篇では、万物が目に見えない働きによって互いに感応し合うという思想が論じられています。
まず著者は、根が見えない菟絲(ねなしかずら)が実は伏苓(ふくりょう)とつながっていること、磁石が鉄を引き寄せること、近くに生える樹木が互いに影響し合うことなどを例に挙げます。そして、それらと同様に、徳のある聖人と民衆の心も深く通じ合うと説いています。
その説明の中で、人々が理想の政治を待ち望む様子を表した言葉が「延頸挙踵」です。
原文:
人或謂兔絲無根 兔絲非無根也 其根不屬也 伏苓是
慈石召鐵 或引之也
樹相近而靡 或軵之也
聖人南面而立 以愛利民為心
號令未出乎戶而天下皆延頸舉踵矣 則精通乎民也
夫賊害於人 人亦然書き下し文:
人或いは兔絲に根無しと謂う。
兔絲は根無きに非ず、其の根屬せざるなり。伏苓是れなり。
慈石の鐵を召すは、或いは之を引くなり。
樹相近うして靡くは、或いは之に軵るなり。
聖人南面して立ち、民を愛し利するを心とす。
號令未だ出でざるに、天下皆頸を延べ踵を舉ぐ。則ち民に精通するなり。
夫れ賊、人を害すれば、人も亦た然り。訳文:
ある人は、ネナシカズラには根がないと言う。だが実際には根がないのではなく、その根が見えないだけであり、伏苓(の塊)とつながっているのである。磁石が鉄を引き寄せるのも、互いに目に見えない何かが鉄を引っ張っりあっているからである。近くに生える木々が同じ方向になびくのも、互いに影響し合っているからである。
聖人は天下を治める立場にあって、常に民を愛し利益を与えることを心としている。そのため命令を発する前から、人々は首を長く伸ばし、つま先立ちになってその政治を待ち望む。これこそが聖人の心が民衆に深く通じている状態なのである。
反対に、人を害する者に対しては、人々もまた敏感に反応するのである。
「延頸」は首を伸ばすこと、「挙踵」はかかとを上げて背伸びをすることです。どちらも遠方を見渡しながら誰かの到来を待つ動作を表しています。
『呂氏春秋』では、徳ある聖人がまだ命令を出していない段階であっても、人々はその仁政を待ち望み、自然と首を伸ばして到来を期待すると説明しています。ここには、優れた為政者と民衆との間に存在する精神的な感応関係が描かれています。
後世、この「延頸舉踵」が独立した四字熟語となり、「首を長くして待つ」「切実に待望する」という意味で広く用いられるようになりました。現在の日本語にある「首を長くして待つ」という慣用表現とも極めて近い意味を持っています。
延頸挙踵とあわせて読みたい『呂氏春秋』・春秋戦国時代の故事成語
『呂氏春秋』や春秋戦国時代の人物たちに関わる故事成語には、興味深い逸話が数多く残されています。
- 一上一下(いちじょういちげ)|呂不韋が関わった『呂氏春秋』の思想を背景に、物事が上がれば下がり、満ちれば欠けるという変化の道理を示す語
- 一字千金(いちじせんきん)|呂不韋が『呂氏春秋』完成後に「一字でも改められたら千金を与える」と掲げたことで生まれた有名な故事成語
- 衣履弊穿(いりへいせん)|荘子は魏の恵王に「身なりが粗末であることは、生活の貧しさを示すにすぎない。道徳を持ちながら実行できない状態こそが、本当の疲弊である」と説いた
- 以身殉利(いしんじゅんり)|荘子が利益に身を捧げる人間のあり方を批判し、名利への執着を戒めた故事
- 一飲一啄(いちいんいったく)|荘子の寓話に由来し、鳥が一口飲み一口啄む様子に、欲張らず自然のままに生きる姿勢を現す言葉
- 運斤成風(うんきんいふう)|荘子の寓話に由来し、名人の大工が、鼻の頭に塗られたハエの羽ほどの微小な泥を、自分の手斧を振るって風を巻き起こすほどの勢いで見事に削り落としたという逸話
- 一往一来(いちおういちらい)|荀子は、針が往復しながら布を縫い上げていく動きを描き、物事は秩序ある動きの積み重ねによって成り立つことを示した
- 郢書燕説(えいしょえんせつ)|「燭を高く掲げよ」と誤って書かれた郢人の手紙を読んで、燕の相国は「賢者を登用せよ」と解釈した『韓非子』の寓話に由来する故事。もっともらしい「こじつけ」を戒める言葉
- 宴安酖毒(えんあんちんどく)|管仲が主君桓公に進言した言葉。安楽にふけることは猛毒を飲むのと同じであり、やがて身を滅ぼす原因になるという戒め
- 一士諤諤(いっしがくがく)|秦で変法を進めた商鞅に対し、趙良が迎合せず率直に諫言した逸話に基づき、多数の追従より一人の正論の重みを示す語
延頸挙踵の類義語・対義語|似た意味の四字熟語との違い
類義語
待ち望む気持ちや大きな期待を表す四字熟語が該当します。
| 類義語(かな) | 意味 |
|---|---|
| 延頸鶴望(えんけいかくぼう) | 首を長くして待ち望むこと |
| 翹首企足(ぎょうしゅきそく) | 首を伸ばしつま先立ちで待つこと |
| 鶴立企佇(かくりつきちょ) | 鶴のように首を伸ばし、つま先立ちで待ち望むこと |
| 延頸企踵(えんけいきしょう) | 首を伸ばし、つま先立ちになって待ち望むこと |
| 翹首引領(ぎょうしゅいんりょう) | 首を上げ、首を長く伸ばして待ち望むこと |
| 延頸鶴望(えんけいかくぼう) | 鶴のように首を長く伸ばして、強く待ち焦がれること |
対義語
期待せず冷静に成り行きを見守る態度を表す言葉が対照的な意味となります。
| 対義語(かな) | 意味 |
|---|---|
| 泰然自若(たいぜんじじゃく) | 落ち着いて動じないこと |
| 冷眼傍観(れいがんぼうかん) | 冷静に見守ること |
延頸挙踵を英語で言うと?英訳表現を紹介
英語では「首を長くして待つ」という意味に近い表現が用いられます
| 英語表現 | 意味 |
|---|---|
| wait eagerly | 心待ちにする |
| look forward to | 楽しみに待つ |
| wait with great anticipation | 大きな期待を抱いて待つ |
人はなぜ延頸挙踵するのか
延頸挙踵は『呂氏春秋』精通に由来する四字熟語で、「首を長くして待ち望むこと」を意味します。その語源には、徳ある為政者の出現を人々が心から待ち望むという、『呂氏春秋』の思想が込められています。
首を伸ばし、つま先立ちになって遠方を見つめる姿は、希望や期待に満ちた人々の心そのものを表しています。現代でも、新たな挑戦や朗報、大切な人との再会を待つ場面などで使うことができる、情景豊かな故事成語です。
当サイトでは、四字熟語や故事成語を中心に400本以上の記事を執筆しています。古代中国の史書や古典に基づく資料を確認し、意味や由来、使われた背景をできるだけ分かりやすく解説しています。
コメント