高陽酒徒|酒を愛した酈食其(れきいき)に由来する自嘲の故事成語

おもしろ四字熟語
記事内に広告が含まれています。
スポンサーリンク

日常において、酒を好む人への表現は数多ありますが、文学的・歴史的な背景を持つ「高陽酒徒(こうようのしゅと)」は、その中でも一風変わった味わい深い表現です。

今回は、その語源となった人物「酈食其(れきいき)」とともに、この四字熟語をひもときます。

スポンサーリンク

高陽酒徒の意味

「高陽酒徒(こうようのしゅと)」とは、酒好きで放蕩な人を表す四字熟語です。特に、世捨て人のように酒を愛する人物が、自嘲的に用いる場面で使われることが多いです。

また、この語は、漢の高祖・劉邦に仕えた酈食其(れきいき)が、自分を「高陽の酒徒」と称した故事に由来しています。

高陽酒徒の使い方と例

「高陽酒徒」は、自身を含めて酒を好む人物を、やや風流に、または謙遜を込めて表現するときに使われます。文学的な比喩としても有効です。

  • 宴席で酒を勧められ、「私など高陽酒徒にすぎませんよ」と冗談めかして応じた。
  • 文士として名を馳せながらも、日々を酒に溺れて過ごす──まさに高陽酒徒であった。
  • 彼の生き様はまるで高陽酒徒。世俗から離れ、自由に酔う姿に憧れる人も多い。

高陽酒徒の語源・由来|酈食其と劉邦の出会い『史記』朱建伝より

「高陽酒徒」という四字熟語は、漢の劉邦に仕えた酈食其(れきいき)という人物に由来するとされています。ただし、『史記』朱建伝の原文には「高陽酒徒」という表現そのものは登場しません。代わりに、以下のような逸話が記されています。

酈食其は高陽の人であり、儒服を着た知識人でした。秦末の混乱期、劉邦(当時は沛公)が関中に進軍してくると、酈食其はその軍門を訪ね、面会を求めました。

原文
酈食其者 高陽人也 冠儒冠 儒服 説沛公

書き下し文:
酈食其は高陽の人なり。儒冠をいただき、儒服をまとい、沛公(はいこう:劉邦)に説かんとす。

訳文:
酈食其は高陽出身の人物で、儒者の装いをして劉邦のもとに赴き、進言しようとした。

ところが、劉邦はもともと儒者を嫌っていたため、礼をもって迎え入れることはしませんでした。彼は女性に命じて髪をとかせたり足を洗わせたりするという、極めて無礼な態度で酈食其と面会します。

原文:
沛公素慢儒生 女為巾櫛 令洗足而與語

書き下し文:
沛公、素より儒生を慢(あなど)り、女をして巾櫛(きんしつ)せしめ、足を洗わせてこれと語る。

訳文:
沛公(劉邦)は日頃から儒者を軽んじており、女に髪を整えさせ、足を洗わせながら酈食其と話をした。

この態度に対して、酈食其は憤慨し、自分はただの儒者ではなく「高陽の酒徒」である──つまり、学者ぶっているわけではなく、無名の放蕩者に過ぎないという自嘲的な言葉を用いて面会を受けようとしたという説が、日本の故事辞典などでは紹介されています。

ただし、この「我は高陽の酒徒なり。儒者にあらず」という発言自体は、『史記』の原文には見られないもので、後世の解釈・伝承と考えられます。

とはいえ、劉邦は最終的に酈食其の弁舌に感銘を受け、彼を使者として重用しました。この故事は、無名の一市井人でも才覚によって抜擢される可能性があるという象徴として語り継がれています。

高陽酒徒と同時代──漢の武将たちにまつわる四字熟語

「高陽酒徒」は酈食其に由来する故事ですが、同時代に活躍した漢の武将や謀臣にも、深い教訓を含む四字熟語が多数あります。以下は劉邦やその配下、ライバルとの関係を描く語句です。

高陽酒徒の類義語・対義語

「高陽酒徒」は、酒を好む放蕩的な人物を自嘲的に表現する語ですが、その意味合いに近い語や反対の価値観を示す語を以下に示します。

類義語

語句 意味
酔生夢死(すいせいむし) 酒に溺れ、何も生産的なことをせずに人生を過ごすこと
酒池肉林(しゅちにくりん) 豪奢な酒宴や放蕩を極めた生活のたとえ

対義語

語句 意味
勤倹力行(きんけんりっこう) 倹約に努め、まじめに努力を重ねること
質素倹約(しっそけんやく) 無駄を省いたつつましい生活を行うこと

高陽酒徒の英語表記と意味

英語表記 意味
habitual drunkard 常習的な酒飲み
self-deprecating drinker 自嘲気味に酒を嗜む人

酈食其の生き様に学ぶ──高陽酒徒の現代的な意味合い

「高陽酒徒」は、単なる酒飲みという意味を超え、社会の表舞台から離れつつも、己の才覚を信じて生きる姿を象徴しています。

現代においても、世間の価値観に縛られず、自らの道を歩む人物にこの語が重なることもあるでしょう。

コメント

タイトルとURLをコピーしました