
歴史の中で語られる数々の名将。その陰には、冷静に戦略を立て、全体を見渡し指示を下す“知将”の存在があります。
四字熟語「発縦指示(はっしょうしじ)」は、そんな知将の価値を讃える言葉であり、劉邦が蕭何の功績を高く評価した際の逸話に由来します。
今回はこの言葉に込められた意味と、その背景にある深い故事を紐解きます。
発縦指示の意味
「発縦指示(はっしょうしじ)」とは、戦闘や組織の現場において、指揮官が部隊や人材を的確に動かし、指示を与えて全体を統率すること、またはそのような指揮を行う人物(指揮官)を意味します。
もともとは、狩猟において猟犬を放ち(発縦)、獲物の位置や進路を指し示す(指示)という場面を指した言葉です。そこから転じて、軍事・組織運営における戦略的な指導や、その役割を果たす者(知将・軍師・指揮官)を象徴する語として用いられるようになりました。
- 発(はつ):放つ、送り出す
- 縦(しょう):解き放つ
発縦指示の使い方と例文
この言葉は、組織や軍において「作戦の立案者が、実動部隊を適切に指示・統率する」といった意味で用いられます。比喩的にビジネスや教育、政治など様々な分野でも使用されます。
- 実行部隊を支えるのは、発縦指示を行う冷静な指導者の存在だ。
- この改革案は、彼の発縦指示によってスムーズに進行した。
- 部長は発縦指示の手腕に優れ、混乱していたチームを見事にまとめ上げた。
発縦指示の語源・由来|劉邦の「狩猟の比喩」による蕭何評価
この言葉の由来は、『史記』「蕭相国世家」に見られる故事にあります。
楚漢戦争が終結し、劉邦(高祖)が天下を平定したのち、功臣たちの功績を論じる場で、劉邦は文官・蕭何の功績を最も高く評価しました。これに対し、戦場で功を立てた将軍たちが不満を述べたのです。
原文:
上曰 「夫獵 發縱指示者人也 逐獸者狗也 狗獨不得獲」書き下し文:
上(しょう)曰(い)わく、「それ猟(か)るに、発縦指示する者は人なり。獣を逐(お)う者は狗(いぬ)なり。狗独(ひと)りにしては獲(え)ず。」現代語訳:
劉邦は言った。「狩りにおいて、獣の居場所を指し示し、犬を放つのは人である。実際に獲物を追いかけるのは犬だが、犬だけでは決して獲物は得られない。」
つまり、功臣たちの戦場での活躍はもちろん称賛すべきだが、それを支える人材の配置、兵站の整備、戦略の立案といった根幹を担った蕭何こそが、獲物の位置を示す“人”であり、最大の功労者だとしたのです。
この比喩がそのまま「発縦指示」という四字熟語として定着しました。
発縦指示に関連する人物・故事
「発縦指示」は、楚漢戦争における知将・蕭何の功績を通じて、戦略的な指導と人材登用の要点を伝える故事成語です。以下に紹介する四字熟語は、劉邦・項羽の時代に生まれた指導・統治・決断にまつわる重要な語句です。歴史の裏にある知略の力を、ぜひ併せてご覧ください。
- 鴻門之会(こうもんのかい)
項羽陣営で行われた暗殺未遂と、張良・蕭何らの機転が生んだ命運を分ける会見
鴻門玉斗(こうもんのぎょくと)
劉邦と范増の緊張が高まった鴻門の場での知略のせめぎ合い- 高陽酒徒(こうようのしゅと)
儒者を嫌う劉邦の無礼な態度に対し、酈食其が「自分は儒者ではなく高陽の酒徒である」と名乗り、その胆力を示した面談の逸話
約法三章(やくほうさんしょう)
民の信頼を得た劉邦の寛政策と、蕭何による法整備の出発点- 天府之国(てんぷのくに)
誰もが左遷と見た蜀を、張良だけが“国の倉”と見抜き、戦略的拠点として劉邦に進言した逸話に由来
沙中偶語(さちゅうのぐうご)
張良と劉邦が偶然耳にした密談から、後の謀反の火種を察知したとされる、機転と洞察の故事- 刀鋸鼎鑊(とうきょていかく)
始皇帝暗殺を企てた張良が命を賭して仇討ちを試みた逸話を背景とする語 - 蓋世之才(がいせいのさい)
蘇軾の『留侯論』において、張良の才能を「世を覆うほどのもの」と称えた表現
発縦指示の類義語・対義語
類義語
| 語句 | 意味 |
|---|---|
| 指揮統率(しきとうそつ) | 軍や組織をまとめ、的確に導くこと |
対義語
| 語句 | 意味 |
|---|---|
| 唯々諾々(いいだくだく) | 自ら考えず、ただ他人の命令に従うさま |
| 百依百順(ひゃくいひゃくじゅん) | 他人の意見にすべて従い、自分の判断を持たないこと |
発縦指示の英語表記と意味
| 英語表記 | 意味 |
|---|---|
| strategic leadership | 戦略的指導、組織や軍の舵取りを行うこと |
| command and direction | 指揮と指示、軍事・組織運営の中枢的な行為 |
知将・蕭何に学ぶ戦略的な指揮の価値
「発縦指示」は、戦場や組織で功を立てる者たちを的確に導く“知略の力”を象徴する言葉です。戦の場では前線に立つ武将ばかりが評価されがちですが、それを背後で支える者の存在がなければ、勝利は成し得ません。
蕭何のように全体を見渡し、人材を配置し、指示を下す存在の価値こそが「発縦指示」に込められた真意なのです。
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