約法三章|劉邦が示した簡明な統治理念を表す故事成語

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秦が滅び、楚漢戦争が始まる混乱のなかで、劉邦は新たな秩序を打ち立てるべく民に示した「三つの法律」。それが「約法三章(やくほうさんしょう)」です。

わずか三つの簡明な禁令にとどめた統治姿勢は、苛烈な秦の法治とは一線を画すものであり、民の信頼を得ることに成功しました。

この語句は、現代でも「無用な規則を設けず、簡素で明確な約束をする」ことの比喩として使われます。

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約法三章の意味

約法三章(やくほうさんしょう)とは、簡単な法や取り決めを作って民衆と約束すること。また、広く簡潔な法律をいいます。

漢の高祖・劉邦が「人を殺してはならない」「物を盗んではならない」「人を傷つけてはならない」という三つの基本法を民に約束したことに由来します。

約法三章の使い方と例文

「約法三章」は、厳しい規制を取り払って、最低限のルールだけを設ける際に用いられます。特に「シンプルな規則を示して納得を得る」ような場面で用いられることが多いです。

  • 新任の部長は、まずは約法三章を掲げ、職場の風土を整えることから始めた。
  • このプロジェクトの運用ルールは約法三章にとどめ、後は現場に任せよう。
  • 子どもとの約束事は、守れるよう約法三章に絞って伝えた。

約法三章の語源・由来|『史記』高祖本紀に見る劉邦の寛政と民心掌握

「約法三章」は、『史記』高祖本紀に見られる故事に由来します。

紀元前206年、秦の末代君主・子嬰(しえい)が、漢の劉邦に降伏したことで、秦は正式に滅亡しました。劉邦は先んじて秦の都・咸陽に入城し、民衆に向けて次のように宣言します。

「秦の厳しい法は廃し、これからは『殺人・傷害・盗み』の三罪だけを禁じる」

と――。これが、後に「約法三章」と呼ばれることになる布告です。

原文:
令曰:「殺人者死 傷人及盗抵罪」

書き下し文:
令して曰はく、「人を殺す者は死す。人を傷つくる者および盗む者は罪にあたる。」

現代語訳:
劉邦は「人を殺した者は死刑に、他人を傷つけたり盗みを働いた者は罰する」と命じた。

当時の秦では、苛酷な法律(法家主義)が民衆を苦しめており、ほんの些細な違反でも重罰に処されていました。そんな中、劉邦は簡明な三つの法のみを約し、それ以上の取り締まりを行わないことで、民衆の信頼と支持を一気に集めることに成功します。

一方、後から関中に到着した項羽は、咸陽において秦王子嬰を処刑し、宮殿を焼き払うという暴挙に出ました。民衆からすれば、これは秦の暴政の再来のように映り、大きな不安を呼び起こしました。

この劉邦の寛容な統治姿勢と、項羽の強圧的かつ破壊的な行動のコントラストが明確になったことで、「次の天下の担い手は劉邦であるべきだ」との世論が高まり、楚漢戦争における彼の支持基盤が形成されていくことになります。

楚漢戦争と劉邦に関するその他の四字熟語

以下は、「約法三章」と同じく楚漢戦争に関わる故事や、劉邦・項羽の人物像を通して生まれた四字熟語です。いずれも、中国史や人物背景を知る上で重要な語句です。

「約法三章」の類義語・対義語

類義語

語句 意味
簡単明瞭(かんたんめいりょう) 内容が簡潔で分かりやすいこと。
直截簡明(ちょくせつかんめい) はっきりしていて、無駄がないこと。

対義語

語句 意味
婉曲迂遠(えんきょくうえん) 遠回しで回りくどい表現や態度
複雑怪奇(ふくざつかいき) 込み入っていて、得体の知れないこと

「約法三章」の英語表記と意味

英語表記 意味
Three Basic Laws 三つの基本的な法律
Simplified Code of Law 簡素化された法規

統治の理想と民の安心を象徴する「約法三章」

「約法三章」は、劉邦が苛政に苦しんだ民を救い、最低限の法で社会秩序を築こうとした英断を象徴する言葉です。現代においても「無駄なルールを増やさず、明快な方針を示す」ことの重要性を示唆してくれます。

ルールや制度が複雑化しがちな現代社会において、時に立ち返るべき統治の原点を思い出させてくれる故事成語といえるでしょう。

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