「躡足附耳」|極秘の忠言を静かに伝える知恵と礼節の故事

おもしろ四字熟語
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人目を避けて密かに言葉を伝える――。その場の空気を乱すことなく、相手に重要な情報を伝えたい場面があります。「躡足附耳(じょうそくふじ)」という四字熟語は、そんな慎重さと敬意が求められる状況を端的に表現します。

楚漢戦争の智将・韓信の逸話に由来するこの言葉は、現代においても気遣いや礼節をもって伝える姿勢として学ぶべき含意があります。

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躡足附耳の意味

「躡足附耳(じょうそくふじ)」とは、そっと足を運び、相手の耳元に近づいて囁くことを意味する四字熟語です。語義としては、

  • 「躡足」は「足を踏み入れる」「踏んで進む」という意味の「躡(じょう)」と「足」から成り、物音を立てずに踏み進む、慎重に近づくことを表します。
  • 「附耳」は耳に寄せて話すこと、つまり耳元で小声で話すことを指します。

転じてこの語は、他人に聞かれぬよう注意深く、相手の立場や感情に配慮しながら忠告や注意を伝えることを意味します。配慮を要する場面で、礼を失せずに諭す態度としても用いられます。

「足を躡(ふ)み耳に附く」とも読みます。

躡足附耳の使い方と例

この四字熟語は、機密性の高い話題や、他人に聞かれてはならない助言・警告などを、そっと伝える場面で使います。また、軽率に語らず、相手への配慮をもって接する姿勢をも含意します。

  • 会議後、部下にだけ躡足附耳して、上司の本当の意図を伝えた。
  • 外では話せない話題だったので、彼は躡足附耳のごとく耳打ちしてきた。
  • 情報漏洩を防ぐため、幹部だけに躡足附耳して状況を共有した。

躡足附耳の語源・由来(『史記』淮陰侯列伝)

「躡足附耳」は、中国前漢の歴史書『史記』の「淮陰侯列伝」に登場する故事に由来します。

楚漢戦争の末期、漢王・劉邦は項羽に対して苦戦を強いられ、楚軍に包囲されて援軍を待つ苦しい状況にありました。そんな中、漢軍の名将・韓信が東方の大国・斉を平定し、大きな戦果を挙げます。

韓信は劉邦に対し、「斉は反覆の多い国で油断ならぬため、軍を引かずにとどまり、假王(仮の王)として統治したい」と申し出ました。

これを聞いた劉邦は激怒します。「今、俺が楚に包囲されて苦しんでいるというのに、助けにも来ず、王にしてくれとは何ごとか!」と、韓信が自立の機をうかがっていると見て憤ったのです。

その場にいた張良陳平は、劉邦の怒りが韓信との決裂を招くことを恐れ、足音を忍ばせ(躡足)、耳元で密かに忠言(附耳)しました

【原文】
張良・陳平曰:「今上困於垓下 兵少食盡 信平齊 欲王之 願上許之」
遂躡足附耳曰:「願王之 令自為守」

【書き下し文】
張良・陳平曰く、「今、上は垓下に困しみ、兵少なくして食尽く。信、斉を平らげてこれを王とせんと欲す。願わくは上、これを許したまえ。」
遂に躡足して耳に附し曰く、「願わくはこれを王とし、自らして守らしめんことを。」

【訳文】
張良と陳平は言いました。「いま、陛下は垓下で楚軍に囲まれ、兵も少なく、食料も尽きようとしています。韓信は斉を平定し、自らを斉王とすることを望んでいます。どうか、これをお認めください。」
そして二人は足音を忍ばせ、耳元でそっとささやきました。「韓信を斉王として任命し、自ら斉を守らせるのが最良です。」

この助言に劉邦はようやく思い至り、「大の男が諸侯を平らげたのだ、真の王とすべきであろう。假王などとは失礼だ」と態度を一変。張良を使者に立てて、韓信を正式に斉王に封じたのです。

この場面に登場する「躡足附耳」は、極限の緊張下で、相手を怒らせず説得するための、最大限の礼節と慎重さをもった伝達行動を示す語として、後に四字熟語化されました。

韓信に関するその他の故事成語

本記事で紹介した「躡足附耳」は、楚漢戦争の名将・韓信にまつわる逸話に由来します。以下に、韓信に関連する他の四字熟語も紹介します。それぞれ、彼の知略や行動を象徴する語句です。

躡足附耳の類義語・対義語

類義語

語句 意味
耳語(じご) 耳元で小声でささやくこと。密かに話すこと。
密談(みつだん) 他人に知られないように、ひそかに相談・談話すること。

※「相手に配慮して礼節をもって進言する」という本語の深い意味に該当する語句は、日本語辞書には確認できませんでした。

対義語

語句 意味
大声疾呼(たいせいしっこ) 大声で呼びかけること。広く知らしめようとする様子。
喧喧囂囂(けんけんごうごう) 多くの人がやかましく騒ぎ立てること。

躡足附耳を英語で表現

英語表記 意味
Whisper quietly 静かに耳元で囁くこと
Speak in hushed tones 抑えた声で話す、密かに伝える

慎みと礼節をもって忠言を伝える姿勢が教えてくれること

「躡足附耳」は、ただ静かに耳元でささやく行為を意味するだけではなく、相手の立場に配慮し、場の空気を壊すことなく思いを伝えるという、深い礼節と知恵を含んだ表現です。

張良や陳平のような智将たちは、君主・劉邦の怒りを静めるため、足音を忍ばせて耳元で助言しました。この故事は、緊迫した状況下においても、言葉を尽くさずに相手を動かすことができる「慎みある進言」の力を私たちに教えてくれます。

現代においても、衝突を避けながら大切なことを伝えるには、内容だけでなく「伝え方」も問われます。「躡足附耳」のように、思慮深さと礼儀をもって伝える姿勢は、職場や人間関係でも生きる知恵として大いに学ぶべきものです。

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